広島県呉市の大和ミュージアムがリニューアル工事のため、来春までの休館期間に入った。休館に伴う代わりの施設がオープン、既存の施設を含む関連施設で軍港都市の魅力をアピールしている。
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注目を集めている零式観測機の実物大模型。オープン初日には多くの来場者が写真に納めた=2月28日、広島県呉市の大和ミュージアムサテライト(矢田幸己撮影)

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先の大戦当時、史上最大の戦艦と称された「大和」の建造秘話や平和の尊さを伝える大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館、広島県呉市)が2月、リニューアル工事のため、来春までの休館期間に入った。旧軍の歴史や技術力に触れられる国内有数の施設で、戦後80年の今年は集客が見込まれただけに、地元としてもやむにやまれぬ思いだという。スケールこそ見劣りするが、代替施設などでカバーできるか-。

地元経済への影響懸念

「大和ミュージアムが休館中でも、『サテライト』がある。入船山記念館や澎湃館(ほうはいかん)、てつのくじら館を巡るデジタルスタンプラリーも始まっています」

休館に伴う代わりの施設「大和ミュージアムサテライト」がオープンした2月28日、あいさつに立った呉市の新原芳明市長が懸命に訴えた。今は関連施設で軍港都市の魅力に触れてほしいとの趣旨だ。

大和建造の技術や造船の街・呉を紹介する大和ミュージアムは戦後60年の平成17年に開館。大和の10分の1模型をシンボルに、初年度は目標40万人をはるかにしのぐ約160万人が来館し、今年2月の休館までに累計約1600万人が国内外から訪れた。地方都市では、異例のスケールだ。

ただ、人気ぶりの一方で観覧環境に課題も。空調の更新時期を迎えたタイミングで大規模改修に乗り出し、混雑解消や照明のLED化を目指す。数年前から検討し、もともとは開館20周年と大和沈没80年に合わせてリニューアルオープンを迎える予定だったが、「資材の調達やコロナ禍で思惑が外れた」(市の担当者)。

令和7年度末までの休館期間が明ければ、デジタル技術を駆使するなどして展示も充実させる。もっとも、大和ミュージアムは観光の目玉。長期休館で呉市への来訪者が目減りすれば、地元経済への影響も懸念される。

大和ミュージアムサテライトに展示中の戦艦大和の100分1模型=2月27日、広島県呉市(矢田幸己撮影)

このため休館対策に余念がない。その柱となり得るのがサテライト(ビューポートくれ内)だ。

主力艦艇による砲撃の弾着観測を行う目的で開発、大和にも搭載された零(れい)式観測機の原寸大模型(全長9・5メートル、全幅11メートル、高さ4メートル)がメイン。大和の100分の1模型も移設して展示し、デジタルパネルで大和や長門、赤城など呉海軍工厰(こうしょう)で建造された艦船を紹介している。

オープン初日には行列

「零観は大和の射撃システムに組み込まれた重要な機体」とは、大和ミュージアムの戸高一成館長。大和の射程は4万メートル以上を誇る。だが、当たらなければ意味がない。いかに正確に命中させられるかは観測機からの情報にかかっているのだ。

事前の触れ込みもあってか、オープン初日には、市内外からの行列ができた。「海に浮かんだ状態で展示されるのはまれ」(戸高氏)という。

大和ミュージアムサテライトのオープン初日には、営業前から行列ができた=2月28日、広島県呉市(矢田幸己撮影)

澎湃館は海軍が明治30年代に建てたレンガ倉庫を活用し、平成30年に開館した観光拠点。間近で潜水艦を視認できる市内の公園「アレイからすこじま」の向かいにあり、大和ミュージアム休館中は「仮展示室」として、大和の46センチ主砲塔の模型(50分の1)や機銃模型(10分の1)を並べる。

旧呉鎮守府司令長官官舎(平成10年に国の重要文化財指定)を中心に、呉の歴史をたどれる入船山記念館や、てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)も健在だ。特に同館は国内で初めて潜水艦を陸上展示。リアルな展示とともに掃海艇の活躍などにも触れられ、入館無料で人気は大和ミュージアムに引けを取らない。

「(展示されている潜水艦)『あきしお』の艦内を含めてじっくりと見ることができた」(大和ミュージアム休館中の来館者)との声も。市担当者は「休館は痛いが、呉観光のピンチをチャンスに変えたい」と意気込む。

筆者:矢田幸己(産経新聞)

■呉市 瀬戸内海のほぼ真ん中に位置する広島県の中核市。水深に恵まれた天然の良港を擁し、明治22(1889)年に旧海軍の呉鎮守府が置かれた。現在約21万人の人口は最盛期の昭和18年には40万人を超えていた。横須賀(神奈川県)、舞鶴(京都府)、佐世保(長崎県)と合わせた旧軍港4市は「日本近代化の躍動を体感できるまち」として平成28年に日本遺産に認定されている。

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