東芝の旧本社ビル近くに掲げられたロゴマーク=東京都港区
This post is also available in:
第3回の記事では、監査法人による意見不表明特別注意銘柄の指定の意味やこれらがニデックにもたらしうる影響について解説した。本稿では、過去に日本を大きく騒がせたオリンパス事件及び東芝事件という2つの不正会計事案と比較する。
オリンパス事件とは
オリンパス事件は、東証一部上場企業であったオリンパス株式会社(以下「オリンパス」)が、約1177億円の損失を10年以上の長期にわたって隠蔽していた事件である。
第三者委員会報告書によれば、オリンパスは、1990年代以降、有価証券投資等に係る含み損の損失計上をせずに、当該含み損を解消するために、含み損を抱える金融商品をファンドに簿価で購入させるなどし、損失計上の先送りを行い、実態に見合わない巨額の買収資金やFA報酬をファンドに流し損失の穴埋めを行うなどしていた。先送りされた損失は約1177億円、維持費用等を含めると約1348億円であった。

オリンパス事件の発覚及びその後の経緯の概要は以下の表のとおりである。
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 2011年10月14日 | オリンパスがマイケル・ウッドフォード氏の代表取締役・社長執行役員からの解職を発表 同氏が、オリンパスの多額の損失隠し疑惑を公表 |
| 2011年10月20日 | 同日のオリンパス株の終値は1321円となり、13日の終値2,482円から1週間で半値近くまで下落 |
| 2011年11月1日 | 第三者委員会設置を公表 |
| 2011年11月8日 | 過去の損失計上先送りを公表 |
| 2011年11月10日 | 2012年3月期第2四半期報告書を提出期限までに提出できないことを公表 東証がオリンパス株を監理銘柄(確認中)に指定 |
| 2011年12月6日 | 第三者委員会が調査結果を公表 東証がオリンパス株を監理銘柄(審査中)に追加指定 |
| 2011年12月21日 | 東京地検、警視庁、証券取引等監視委員会(SESC)が、オリンパスに対する強制捜査を開始 |
| 2012年1月7日 | 取締役責任調査委員会の調査結果の報告 現旧取締役19名について善管注意義務違反等が認められると認定 |
| 2012年1月21日 | 東証がオリンパス株の監理銘柄の指定を解除し、特設注意市場銘柄に指定するとともに、上場契約違約金1000万円徴求 |
| 2012年3月7日 | 東京地検がオリンパスと元役員ほか6名を起訴 |
| 2012年4月13日 | SESCが約1億9182万円の課徴金納付命令の勧告 |
| 2012年7月11日 | 金融庁が約1億9182万円の課徴金納付命令決定 |
| 2013年1月21日 | 東証に内部管理体制確認書を提出 |
| 2013年6月11日 | 東証がオリンパス株の特設注意市場銘柄の指定を解除 |
| 2013年7月3日 | 東京地裁がオリンパスに対し罰金7億円の判決(確定) |
オリンパス株に対する東証の処遇
上記表のとおり、オリンパス株は、2011年11月10日に、四半期報告書を法定の提出期限までに提出できなかったことを受け監理銘柄(確認中)に指定されました。その後、同年12月6日に、第三者委員会の調査報告書を受け、東証は、オリンパス株について、今後の審査の結果によっては上場廃止基準に該当するおそれがあると判断し、監理銘柄(審査中)に追加指定した。監理銘柄とは、証券取引所が上場廃止基準に該当するおそれがある上場銘柄について、投資家にその事実を周知するため、指定した銘柄のことをいう。「有価証券報告書等に虚偽記載を行い、その影響が重大である場合」等には「監理銘柄(審査中)」に指定され、それ以外の場合は「監理銘柄(確認中)」に指定される。これらの審査・確認の結果、上場廃止基準に該当すると、「整理銘柄」に指定され、約1ヶ月後に上場廃止となる。
しかし、オリンパス株は、2012年1月21日に監理銘柄の指定を解除され、同日、特設注意市場銘柄に指定された。その理由は、損失の発生やその後の隠蔽行為は、一部の関与者のみによってなされたものであり、また、オリンパスの利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤らせるものであったとまではいえず、上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められないとするものであった。
「特設注意市場銘柄」は、2024年1月に「特別注意銘柄」に呼称が変更されたものであり、「特別注意銘柄」と実質的に同じである。その意義は前稿「ニデックを追う(3):ニデックは今後どうなるのか」を参照されたい。
オリンパスは、2013年6月11日、特設注意市場銘柄の指定も解除され、最終的に上場廃止は免れた。
なお、オリンパス事件においては、監査法人による不適正意見や意見不表明などの意見はなされていない。
オリンパスの民事責任
上場廃止を免れたオリンパスであったが、多くの損害賠償請求訴訟が提起された。
公開されている情報ら判明しているものとして以下の訴訟がある。
| 提訴年月日 | 原告 | 訴額 | 結果 | |
|---|---|---|---|---|
| ① | 2012年6月28日 | 海外機関投資家・年金基金等49社 | 約191億円 | 2015年3月27日、④事件と併せて、86社との間で最大110億円を支払う内容の和解成立 |
| ② | 2012年7月23日 | テルモ | 約66億円 | 2013年11月18日、60億円を支払う内容の和解成立 |
| ③ | 2012年12月13日 | 海外機関投資家等68社 | 約59億円 | 2016年12月26日、40億円を支払う内容の和解成立 |
| ④ | 2013年6月27日 | 海外機関投資家・年金基金等43社 | 約168億円 | ①事件と同じ |
| ⑤ | 2014年4月7日 | 信託銀行6社 | 約279億円 | 不明(⑥事件と推測) |
| ⑥ | 守秘義務により不明(⑤事件と推測) | 機関投資家 | 2014年12月26日、機関投資家との間で43億6000万円を支払う内容の和解成立 | |
| ⑦ | 2012年 | 国内個人投資家・機関投資家複数 | 約2000万円 | 2016年6月29日、合計2085万0595円の支払いを命じる判決(大阪高裁) |
| ⑧ | 2013年 | 国内個人投資家1名 | 1億1177万2009円 | 2015年3月19日、4818万円の支払いを命じる判決(東京地裁) |
オリンパスに課されたその他の責任
その他、オリンパスは、2012年7月11日、金融庁から約1億9182万円の課徴金納付命令決定を受けた。
さらに、刑事責任として、オリンパスに7億円の罰金刑を言い渡されている。
東芝事件とは
東芝事件とは、東証一部上場企業であった株式会社東芝(以下「東芝」)が、7年間にわたり、累計約2248億円の税引き前利益の過大計上が行われた事件である。
第三者委員会によれば、東芝は以下の不適切な会計手法を用いて利益の過大計上を行っていたとのことである。
- 工事進行基準の恣意的運用による原価の過少見積もり、工事損失引当金の計上遅延
- 損失が見込まれる案件について、引当金・評価損の計上遅延
- 在庫評価の操作
東芝事件の発覚及びその後の経緯の概要は以下の表のとおりである。
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 2015年2月12日 | SESCから報告命令を受け、工事進行基準案件等について開示検査を受ける |
| 2015年4月3日 | 特別調査委員会を設置 |
| 2015年5月8日 | 第三者委員会を設置し、第三者委員会による調査へ移行 工事損失引当金が適切に計上されていないなどの事象が判明し、過年度決算修正の可能性があることを公表 |
| 2015年5月29日 | 2015年3月期の有価証券報告書の提出期限を6月30日から8月31日に延長 |
| 2015年7月20日 | 第三者委員会の調査結果報告。過年度有価証券報告書における不適切会計(利益の過大計上・損失先送り等)が判明 |
| 2015年8月31日 | 2015年3月期の有価証券報告書の提出期限を9月7日に再延長 |
| 2015年9月7日 | 訂正報告書において過年度決算を訂正 |
| 2015年9月14日 | 東証及び名証が、上場契約違約金9120万円及び1740万円をそれぞれ徴求 |
| 2015年9月15日 | 特設注意市場銘柄に指定 |
| 2015年12月24日 | 金融庁が73億7350万円の課徴金納付命令決定 |
| 2016年9月15日 | 東証、名証に対し内部管理体制確認書を提出 |
| 2016年12月19日 | 特設注意市場銘柄指定を継続 |
| 2016年12月27日 | 子会社における巨額の損失計上の可能性が開示 |
| 2017年2月14日以降 | 第3四半期報告書の提出期限を二度にわたり延長 |
| 2017年3月15日 | 東証、名証に対し内部管理体制確認書を再提出 監理銘柄(審査中)に指定 |
| 2017年4月11日 | 第3四半期報告書提出。第3四半期のレビュー報告書は「結論不表明」 |
| 2017年6月23日 | 2017年3月期有価証券報告書の提出期限を延長 |
| 2017年8月10日 | 2017年3月期有価証券報告書提出。監査意見は財務諸表に「限定付適正意見」、内部統制に「不適正意見」 |
| 2017年10月12日 | 内部統制の改善が認められ、東証・名証共に特設注意市場 銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定をいずれも解除 |
東芝株に対する証券取引所の処遇
東芝は、2015年9月7日、2010年3月期から2015年3月期第3四半期までの期間における有価証券報告書及び四半期報告書の訂正報告書を提出し、これらにより、2009年3月期から2015年3月期第3四半期までに、損失の先送り等の不正会計を行い、継続事業税引前利益が累計で2248億円、当期純利益が累計で1552億円過大に計上されていたこと等が判明した。

これを受け、東証及び名証は、2015年9月15日、内部管理体制等において深刻な問題を抱えており、当該内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるとして、東芝株を特設注意市場銘柄に指定した。
これを受け、東芝は、1年後の2016年9月15日、東証及び名証に対し内部管理体制確認書を提出したが、指定後も会計処理等に関する問題が確認されるなど、コンプライアンスの徹底や関係会社の管理等において更なる取り組みを必要とする状況が存在しており、これらの改善に向けた取り組みの進捗等について引き続き確認する必要があるとして、同年12月19日、指定が継続されることとなった。その後、2017年3月15日、特設注意市場銘柄指定から1年6ヶ月が経過したため、上場廃止となるおそれがあると認められ、監理銘柄(審査中)に指定された。
しかしながら、同日提出された内部管理体制確認書を審査した結果、内部管理体制等について相応の改善がなされたと認められ、2017年10月12日、東芝株の特設注意市場銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定がいずれも解除され、上場廃止を免れた。もっとも、その後、東芝は、2023年12月に自主的に上場を廃止した。
東芝の民事責任
オリンパス同様、上場廃止を免れた東芝であったが、多くの損害賠償請求訴訟が提起されている。公刊されている裁判例は東京地判令和3年5月13日など少なくとも8件があるが、現在もなお多くの訴訟が係属中である。
また、公開されている資料から判明しているものとして以下の和解事案がある(但し日本において提起されたもののみ)。
| 提訴年月日 | 原告 | 訴額 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 2016年5月6日 | 日本カストディ銀行 | 約13億円 | 2022年3月25日、65億円を支払う内容の和解成立 |
| 2016年8月9日 | 日本カストディ銀行 | 約186億円 | 2022年3月25日、65億円を支払う内容の和解成立 |
| 2017年3月28日 | 国内機関投資家3社 | 約51億円 | 2021年7月8日、8億2000万円を支払う内容の和解成立 |
| 2017年3月28日 | 国内機関投資家3社 | 約131億円 | 2021年12月7日、19億2000万円を支払う内容の和解成立 |
| 2017年3月31日 | 日本カストディ銀行 | 約140億円 | 2023年10月30日、44億円を支払う内容の和解成立 |
ニデック事件との比較
オリンパスも東芝も、いずれも上場廃止を免れているが、監理銘柄又は特設注意市場銘柄(現特別注意銘柄)の指定を受けた点で、ニデックが特別注意銘柄の指定を受けたことと共通する。しかしながら、オリンパスと東芝のケースにはニデック事件と大きく異なる点がある。オリンパス事件も東芝事件も、監理銘柄又は特設注意市場銘柄(現特別注意銘柄)の指定を受けたのは、第三者委員会の調査報告書が公表された後であり、指定前から虚偽記載の内容が判明しており、すでに再発防止策に取り組んでいたものと思われることである。これに対し、ニデックは、2025年10月28日に特別注意銘柄に指定されたが、約3ヶ月が経過した2026年2月初旬となっても未だ第三者委員会の調査結果が公表されていない。不適切会計の内容及び原因が不明であれば、再発防止や内部管理体制の改善に取り組むことは難しいことから、所定の期間内までに内部管理体制等を改善できない可能性がオリンパス事件及び東芝事件よりも高いといえる。
また、オリンパス事件においては、第三者委員会設置から調査結果報告まで約1ヶ月、東芝事件は、特別調査委員会の調査が1ヶ月、第三者委員会設置から調査結果報告までが約2ヶ月弱である。これに対し、ニデックにおいては、2025年9月3日に第三者委員会が設置されてから、5ヶ月以上経った2026年2月初旬現在、未だ第三者委員会の調査結果が公表されていない。2026年1月下旬にニデックが公開したスケジュールによれば、第三者委員会による「一定の報告」がなされるのは2026年2月末であり、「最終報告」がなされるのはさらにその後とされている。ニデック事件における不適切会計処理による利益等の虚偽表示の金額は、オリンパス事件や東芝事件の金額よりも多額になる可能性がある。そうなれば、ニデック株の株価に与える影響は両事件よりも大きくなる可能性がある。
2025年12月19日、同社の創業者であり、代表取締役グローバルグループ代表である永守重信氏が代表取締役を辞任した。不適切会計処理疑惑の内容も明らかになっていない状況での辞任は異例といえる。
次回は、有価証券報告書等の虚偽記載によって損害を被った投資家はどのようにして保護されるのかについて解説する。
著者:藤井雅樹、山内大将、百田博太郎(弁護士)
関連記事:
- ニデックを追う(1):なぜ今、不適切会計処理問題に注目すべきか
- ニデックを追う(2):不適切会計問題の概要──何が起きたのか
- ニデックを追う(3):2つの上場廃止リスク
- ニデックを追う(4):第三者委員会調査報告書の概要
◇
This post is also available in:

