モーター大手ニデックで起きた不適切会計処理問題。ニデックにおいて何が起きているのか、投資家はどのような対応をしていくべきか、ニデック問題について複数回に分けて追っていく。
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東芝の旧本社ビル近くに掲げられたロゴマーク=東京都港区

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第3回の記事では、監査法人による意見不表明特別注意銘柄の指定の意味やこれらがニデックにもたらしうる影響について解説した。本稿では、過去に日本を大きく騒がせたオリンパス事件及び東芝事件という2つの不正会計事案と比較する。

オリンパス事件とは

オリンパス事件は、東証一部上場企業であったオリンパス株式会社(以下「オリンパス」)が、約1177億円の損失を10年以上の長期にわたって隠蔽していた事件である。

第三者委員会報告書によれば、オリンパスは、1990年代以降、有価証券投資等に係る含み損の損失計上をせずに、当該含み損を解消するために、含み損を抱える金融商品をファンドに簿価で購入させるなどし、損失計上の先送りを行い、実態に見合わない巨額の買収資金やFA報酬をファンドに流し損失の穴埋めを行うなどしていた。先送りされた損失は約1177億円、維持費用等を含めると約1348億円であった。

記者会見するニデックの岸田光哉社長=1月28日午後、東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)

オリンパス事件の発覚及びその後の経緯の概要は以下の表のとおりである。

年月日出来事
2011年10月14日オリンパスがマイケル・ウッドフォード氏の代表取締役・社長執行役員からの解職を発表
同氏が、オリンパスの多額の損失隠し疑惑を公表
2011年10月20日同日のオリンパス株の終値は1321円となり、13日の終値2,482円から1週間で半値近くまで下落
2011年11月1日第三者委員会設置を公表
2011年11月8日過去の損失計上先送りを公表
2011年11月10日2012年3月期第2四半期報告書を提出期限までに提出できないことを公表
東証がオリンパス株を監理銘柄(確認中)に指定
2011年12月6日第三者委員会が調査結果を公表
東証がオリンパス株を監理銘柄(審査中)に追加指定
2011年12月21日東京地検、警視庁、証券取引等監視委員会(SESC)が、オリンパスに対する強制捜査を開始
2012年1月7日取締役責任調査委員会の調査結果の報告
現旧取締役19名について善管注意義務違反等が認められると認定
2012年1月21日東証がオリンパス株の監理銘柄の指定を解除し、特設注意市場銘柄に指定するとともに、上場契約違約金1000万円徴求
2012年3月7日東京地検がオリンパスと元役員ほか6名を起訴
2012年4月13日SESCが約1億9182万円の課徴金納付命令の勧告
2012年7月11日金融庁が約1億9182万円の課徴金納付命令決定
2013年1月21日東証に内部管理体制確認書を提出
2013年6月11日東証がオリンパス株の特設注意市場銘柄の指定を解除
2013年7月3日東京地裁がオリンパスに対し罰金7億円の判決(確定)

オリンパス株に対する東証の処遇

上記表のとおり、オリンパス株は、2011年11月10日に、四半期報告書を法定の提出期限までに提出できなかったことを受け監理銘柄(確認中)に指定されました。その後、同年12月6日に、第三者委員会の調査報告書を受け、東証は、オリンパス株について、今後の審査の結果によっては上場廃止基準に該当するおそれがあると判断し、監理銘柄(審査中)に追加指定した。監理銘柄とは、証券取引所が上場廃止基準に該当するおそれがある上場銘柄について、投資家にその事実を周知するため、指定した銘柄のことをいう。「有価証券報告書等に虚偽記載を行い、その影響が重大である場合」等には「監理銘柄(審査中)」に指定され、それ以外の場合は「監理銘柄(確認中)」に指定される。これらの審査・確認の結果、上場廃止基準に該当すると、「整理銘柄」に指定され、約1ヶ月後に上場廃止となる。

しかし、オリンパス株は、2012年1月21日に監理銘柄の指定を解除され、同日、特設注意市場銘柄に指定された。その理由は、損失の発生やその後の隠蔽行為は、一部の関与者のみによってなされたものであり、また、オリンパスの利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤らせるものであったとまではいえず、上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められないとするものであった。

「特設注意市場銘柄」は、2024年1月に「特別注意銘柄」に呼称が変更されたものであり、「特別注意銘柄」と実質的に同じである。その意義は前稿「ニデックを追う(3):ニデックは今後どうなるのか」を参照されたい。

オリンパスは、2013年6月11日、特設注意市場銘柄の指定も解除され、最終的に上場廃止は免れた。
なお、オリンパス事件においては、監査法人による不適正意見や意見不表明などの意見はなされていない。

オリンパスの民事責任

上場廃止を免れたオリンパスであったが、多くの損害賠償請求訴訟が提起された。
公開されている情報ら判明しているものとして以下の訴訟がある。

提訴年月日原告訴額結果
2012年6月28日海外機関投資家・年金基金等49社約191億円2015年3月27日、④事件と併せて、86社との間で最大110億円を支払う内容の和解成立
2012年7月23日テルモ約66億円2013年11月18日、60億円を支払う内容の和解成立
2012年12月13日海外機関投資家等68社約59億円2016年12月26日、40億円を支払う内容の和解成立
2013年6月27日海外機関投資家・年金基金等43社約168億円①事件と同じ
2014年4月7日信託銀行6社約279億円不明(⑥事件と推測)
守秘義務により不明(⑤事件と推測)機関投資家 2014年12月26日、機関投資家との間で43億6000万円を支払う内容の和解成立
2012年国内個人投資家・機関投資家複数約2000万円2016年6月29日、合計2085万0595円の支払いを命じる判決(大阪高裁)
2013年国内個人投資家1名1億1177万2009円2015年3月19日、4818万円の支払いを命じる判決(東京地裁)

オリンパスに課されたその他の責任

その他、オリンパスは、2012年7月11日、金融庁から約1億9182万円の課徴金納付命令決定を受けた。
さらに、刑事責任として、オリンパスに7億円の罰金刑を言い渡されている。

東芝事件とは

東芝事件とは、東証一部上場企業であった株式会社東芝(以下「東芝」)が、7年間にわたり、累計約2248億円の税引き前利益の過大計上が行われた事件である。
第三者委員会によれば、東芝は以下の不適切な会計手法を用いて利益の過大計上を行っていたとのことである。

  • 工事進行基準の恣意的運用による原価の過少見積もり、工事損失引当金の計上遅延
  • 損失が見込まれる案件について、引当金・評価損の計上遅延
  • 在庫評価の操作

東芝事件の発覚及びその後の経緯の概要は以下の表のとおりである。

年月日出来事
2015年2月12日SESCから報告命令を受け、工事進行基準案件等について開示検査を受ける
2015年4月3日特別調査委員会を設置
2015年5月8日第三者委員会を設置し、第三者委員会による調査へ移行
工事損失引当金が適切に計上されていないなどの事象が判明し、過年度決算修正の可能性があることを公表
2015年5月29日2015年3月期の有価証券報告書の提出期限を6月30日から8月31日に延長
2015年7月20日第三者委員会の調査結果報告。過年度有価証券報告書における不適切会計(利益の過大計上・損失先送り等)が判明
2015年8月31日2015年3月期の有価証券報告書の提出期限を9月7日に再延長
2015年9月7日訂正報告書において過年度決算を訂正
2015年9月14日東証及び名証が、上場契約違約金9120万円及び1740万円をそれぞれ徴求
2015年9月15日特設注意市場銘柄に指定
2015年12月24日金融庁が73億7350万円の課徴金納付命令決定
2016年9月15日東証、名証に対し内部管理体制確認書を提出
2016年12月19日特設注意市場銘柄指定を継続
2016年12月27日子会社における巨額の損失計上の可能性が開示
2017年2月14日以降第3四半期報告書の提出期限を二度にわたり延長
2017年3月15日東証、名証に対し内部管理体制確認書を再提出
監理銘柄(審査中)に指定
2017年4月11日第3四半期報告書提出。第3四半期のレビュー報告書は「結論不表明」
2017年6月23日2017年3月期有価証券報告書の提出期限を延長
2017年8月10日2017年3月期有価証券報告書提出。監査意見は財務諸表に「限定付適正意見」、内部統制に「不適正意見」
2017年10月12日内部統制の改善が認められ、東証・名証共に特設注意市場
銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定をいずれも解除

東芝株に対する証券取引所の処遇

東芝は、2015年9月7日、2010年3月期から2015年3月期第3四半期までの期間における有価証券報告書及び四半期報告書の訂正報告書を提出し、これらにより、2009年3月期から2015年3月期第3四半期までに、損失の先送り等の不正会計を行い、継続事業税引前利益が累計で2248億円、当期純利益が累計で1552億円過大に計上されていたこと等が判明した。

2025年7月まで東芝の本社があった浜松町ビルディング=東京都内

これを受け、東証及び名証は、2015年9月15日、内部管理体制等において深刻な問題を抱えており、当該内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるとして、東芝株を特設注意市場銘柄に指定した。

これを受け、東芝は、1年後の2016年9月15日、東証及び名証に対し内部管理体制確認書を提出したが、指定後も会計処理等に関する問題が確認されるなど、コンプライアンスの徹底や関係会社の管理等において更なる取り組みを必要とする状況が存在しており、これらの改善に向けた取り組みの進捗等について引き続き確認する必要があるとして、同年12月19日、指定が継続されることとなった。その後、2017年3月15日、特設注意市場銘柄指定から1年6ヶ月が経過したため、上場廃止となるおそれがあると認められ、監理銘柄(審査中)に指定された。

しかしながら、同日提出された内部管理体制確認書を審査した結果、内部管理体制等について相応の改善がなされたと認められ、2017年10月12日、東芝株の特設注意市場銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定がいずれも解除され、上場廃止を免れた。もっとも、その後、東芝は、2023年12月に自主的に上場を廃止した。

東芝の民事責任

オリンパス同様、上場廃止を免れた東芝であったが、多くの損害賠償請求訴訟が提起されている。公刊されている裁判例は東京地判令和3年5月13日など少なくとも8件があるが、現在もなお多くの訴訟が係属中である。

また、公開されている資料から判明しているものとして以下の和解事案がある(但し日本において提起されたもののみ)。

提訴年月日原告訴額結果
2016年5月6日日本カストディ銀行約13億円2022年3月25日、65億円を支払う内容の和解成立
2016年8月9日日本カストディ銀行約186億円2022年3月25日、65億円を支払う内容の和解成立
2017年3月28日国内機関投資家3社約51億円2021年7月8日、8億2000万円を支払う内容の和解成立
2017年3月28日国内機関投資家3社約131億円2021年12月7日、19億2000万円を支払う内容の和解成立
2017年3月31日日本カストディ銀行約140億円2023年10月30日、44億円を支払う内容の和解成立

ニデック事件との比較

オリンパスも東芝も、いずれも上場廃止を免れているが、監理銘柄又は特設注意市場銘柄(現特別注意銘柄)の指定を受けた点で、ニデックが特別注意銘柄の指定を受けたことと共通する。しかしながら、オリンパスと東芝のケースにはニデック事件と大きく異なる点がある。オリンパス事件も東芝事件も、監理銘柄又は特設注意市場銘柄(現特別注意銘柄)の指定を受けたのは、第三者委員会の調査報告書が公表された後であり、指定前から虚偽記載の内容が判明しており、すでに再発防止策に取り組んでいたものと思われることである。これに対し、ニデックは、2025年10月28日に特別注意銘柄に指定されたが、約3ヶ月が経過した2026年2月初旬となっても未だ第三者委員会の調査結果が公表されていない。不適切会計の内容及び原因が不明であれば、再発防止や内部管理体制の改善に取り組むことは難しいことから、所定の期間内までに内部管理体制等を改善できない可能性がオリンパス事件及び東芝事件よりも高いといえる。

また、オリンパス事件においては、第三者委員会設置から調査結果報告まで約1ヶ月、東芝事件は、特別調査委員会の調査が1ヶ月、第三者委員会設置から調査結果報告までが約2ヶ月弱である。これに対し、ニデックにおいては、2025年9月3日に第三者委員会が設置されてから、5ヶ月以上経った2026年2月初旬現在、未だ第三者委員会の調査結果が公表されていない。2026年1月下旬にニデックが公開したスケジュールによれば、第三者委員会による「一定の報告」がなされるのは2026年2月末であり、「最終報告」がなされるのはさらにその後とされている。ニデック事件における不適切会計処理による利益等の虚偽表示の金額は、オリンパス事件や東芝事件の金額よりも多額になる可能性がある。そうなれば、ニデック株の株価に与える影響は両事件よりも大きくなる可能性がある。

2025年12月19日、同社の創業者であり、代表取締役グローバルグループ代表である永守重信氏が代表取締役を辞任した。不適切会計処理疑惑の内容も明らかになっていない状況での辞任は異例といえる。

次回は、有価証券報告書等の虚偽記載によって損害を被った投資家はどのようにして保護されるのかについて解説する。

著者:藤井雅樹、山内大将、百田博太郎(弁護士)

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