不適切会計疑惑で記者会見し、厳しい表情で質問に応じる岸田光哉社長=11月14日午後、東京都中央区(三尾郁恵撮影)
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日本の製造業を代表するニデックが、海外子会社での不適切会計処理を公表した。精密モーターで世界トップを誇る企業に何が起きたのか。今回は、その概要について紹介する。
発覚の経緯
ニデックは、2025年6月、連結子会社であるFIR社に関する取引で、原産国申告に誤りがあり、追加関税を支払っていなかったことが発覚したと公表し、類似事象の有無等を調査する必要があるとして、有価証券報告書の提出期限を延長した。

さらに、ニデックは、同年9月3日、中国子会社において、購買一時金に関して、不適切な会計処理が行われた疑いがある旨、ニデックやグループ会社の経営陣の関与又は認識の下で、資産性にリスクのある資産に関して評価減の時期を恣意的に検討しているとも解釈しうるなど、不適切な会計処理が行われていたことを疑わせる資料が複数発見された旨を公表するとともに、これらの事実関係の調査、影響額の算定、及び原因究明・再発防止策の策定等のために、第三者委員会を設置した。
その後、同年9月26日には有価証券報告書が提出されたが、その際、ニデックは、これまでに公表した問題以外にも不適切な会計処理があったこと及び監査法人から「意見不表明」の監査報告書を受領したことが公表された。
このように、次から次へと不適切会計疑惑が発覚したと公表されている。
これを受け、10月28日には、東京証券取引所がニデック株式を「特別注意銘柄」に指定し、11月にはニデックはTOPIX及び日経平均株価の構成銘柄から除外された。このことは10月27日に発表、報道され、その翌日の10月28日、同社株価は急落し、これまで9月3日の第三者委員会設置の公表以降、最大で1237円(約30%)株価が下落した。
第三者委員会設置の公表から約3ヶ月経った12月19日現在、いまだ第三者委員会の調査終了時期すら未定の状態である。
<図表1:経緯の概要>
| 日付 | 出来事 |
| 2025/6/18 | 監査手続を完了するために必要な調査が完了していないことを理由に有価証券報告書の提出予定日を延期 |
| 2025/9/3 | 不適切な会計処理の疑いが発覚したとして第三者委員会を設置 |
| 2025/10/23 | 中間配当を無配当、期末配当予想及び連結業績予想を未定と公表 |
| 2025/10/28 | 東京証券取引所がニデックを「特別注意銘柄」に指定 |
不適切処理の内容
現在公表されている不適切会計処理の内容は、図表2のとおりであるが、いずれも現状において詳細は不明である。
<図表2:不適切会計の概要>
| 1. イタリアの子会社、FIR社 | 5年半もの間、中国製の部品を使ってオーブン用モーターを製造していたにもかかわらず、原産地をイタリアとしてアメリカに輸出し、追加関税を支払っていなかった。 |
| 2.中国の子会社 | 2024年9月下旬にサプライヤーからの値引きに相当する購買一時金(金額1,000万元、約2億円)に関して不適切な会計処理が行われた疑い。 |
| 3. ニデック及びそのグループ会社 | 2024年9月下旬にサプライヤーからの値引きに相当する購買一時金(金額1,000万元、約2億円)に関して不適切な会計処理が行われた疑い。 |
| 4. ニデックエレシス株式会社 | 正当な理由なく適正金額より低く関税申告 |
| 5. ニデックのスイス連結子会社 | 必要な登録をせずに輸出取引を行っていた事案について適切な対応がなされていなかった疑いが発見 |
| 6. 中国連結子会社 | 源泉所得税を意図的に過少申告していた疑いを認識 |
第三者委員会の調査の対象となっている問題は、図表2の③であるが、これは損失の先送りという不正会計ではないかとの推測がなされている。資産はその価値が下がった場合、評価減や減損を行い、損失を計上する必要があるところ、かかる損失の計上を適切な時期に行わず、当期の利益を過大に計上したのではないかというものである。損失の先送りは、東芝においても行われた典型的な不正会計である。ニデックの公表によれば、かかる不適切会計は、経営陣の関与又は認識の下で、ニデック本社及び複数のグループ会社において行われていたことが疑われており、その額は極めて多額になることが予想される。
これらの発覚を受け、監査法人は、監査意見について「意見不表明」とし、東京証券取引所は、ニデック株式を「特別注意銘柄」に指定した。
次回は、これらの意義について解説し、今後ニデックがどうなる可能性があるのかについて解説する。
著者:藤井雅樹、山内大将、百田博太郎(弁護士)
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