立法会選挙の投票日から一夜明け、売店で売られる香港紙=香港(共同)
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香港立法会(議会、定数90)議員の選挙が行われた。立候補者は親中派に限られたため全ての議席を独占することになった。
選挙制度の見直しで民主派が排除されて2度目の立法会選だったが、前回2021年に1人当選した中間派も今回は候補者擁立の断念を余儀なくされた。立法会が親中派一色になったのは1997年の中国返還後初めてだ。
選挙とは、有権者が多様な政見をもつ候補者から自由に最適と思う人物を選ぶ仕組みだ。香港の立法会選挙は、その意味で選挙の体をなしていない。
香港は1997年に英国から中国へ返還されたが、50年間は「一国二制度」を守る約束だった。これを中国政府は反故(ほご)にし、香港国家安全維持法の制定を強行した。

民主的な選挙とはいえない、語義矛盾のような立法会選の結果、中国共産党に忠誠を尽くす親中派の香港政府・議会によって、習近平総書記(国家主席)の意向が最優先される香港統治が加速することを憂慮する。
一般市民が投票できる直接選挙枠の投票率は31・9%と、過去最低だった前回の30・2%を少しだけ上回った。中国政府はこれを評価したが、民主派も参加した2016年の投票率58・3%よりはるかに低い。
香港北部の高層住宅群で160人以上の死者・不明者を出した大規模火災が起きたのは投票の11日前のことだった。
香港政府の監督責任を問う声があがる中、政府トップの李家超行政長官は投票率アップに固執した。そればかりか、火災を利用して扇動を企てたとして、元区議の男性らを逮捕した。火災原因の究明を求めた男子学生も逮捕した。

今回の火災で分かったのは、「国家の安全」の名の下に、香港政府が「市民の安全」を軽視している実態だ。李氏は「被災者を守るために投票が必要だ」と唱えた。被災者まで政治目的に利用する発言は疑問だ。
香港政府は被災世帯にソーシャルワーカーを割り当てた。被災者に寄り添う支援かと思いきや、ソーシャルワーカーから何度も投票に行くよう促されたと明かす被災者もいる。だが、火災現場の選挙区は、全ての選挙区の中で白票などの無効票の割合が最も高かった。強権下の香港市民に同情を禁じ得ない。
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2025年12月11日付産経新聞【主張】を転載しています
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