川崎市の20歳の女性が昨年、行方不明となり、元交際相手の自宅で遺体となって見つかるまで、4カ月以上を要した。被害者は何度もストーカー被害を警察に訴えていた。繰り返される悲劇はどうすれば止められるのか。
Kanagawa Police Stalker Investigation

遺体が見つかった川崎市の住宅付近に集まる神奈川県警の捜査員ら

This post is also available in: English

何度も被害を警察に訴えていた20歳の女性の命は、本当に救えなかったのか。繰り返される悲劇はどうすれば止められるのか。

悲しい結末を迎えた痛ましい事件の、検証を徹底すべきだ。

川崎市の岡崎彩咲陽(あさひ)さんは昨年12月20日に行方不明となり、元交際相手の白井秀征容疑者=死体遺棄容疑で送検=の自宅で遺体となって見つかるまで、4カ月以上を要していた。岡崎さんは複数回にわたって神奈川県警に、容疑者の暴力やつきまとい行為を相談していた。行方不明の直前も容疑者が自宅付近をうろつく恐怖を訴えていた。

この時点までにストーカー規制法による強い措置があれば、最悪の事態は避けられた可能性がある。だが県警は当初、ストーカー被害の認識はなく、その理由を「被害者の希望がなかったため」と説明した。同法違反容疑の捜索で遺体を発見したのは、岡崎さんの不明後に「容疑者の供述で犯罪事実の構成が可能になったため」という。

結果の重大さを前にして、この弁明はあまりにむなしい。

ストーカー規制法は「桶川ストーカー殺人事件」を契機に平成12年、議員立法で成立した。民事不介入とされた捜査原則の例外として、深刻な事態に至る前に警察の介入を可能としたものだ。

神奈川県警本部

いわば未来の命を守るための法であり、事件後の犯罪認定はその趣旨にかなわない。

規制法は施行後も、重大事件の度に改正を重ねてきた。28年には親告罪から非親告罪に変更された。令和3年には被害者所在地の見張りなどもつきまとい行為に加えられた。だが的確な運用が伴わなければ、法改正の効力は発揮されない。

県警は「今後の捜査で事案の全容を解明し、改善点があるか確認する」と述べている。教訓と反省を共有すべく、この結果は詳細に公表すべきである。

恋愛感情に起因するストーカー事案は関係者の心情の振幅が大きく、プライバシーの問題も絡み、介入は往々にして困難が伴う。それでも警察には、最善の対応を求めたい。

桶川事件で長女を亡くした父親は、川崎の事件を受けて「相談を受けた警察署は、市民の生命を守るという使命を忘れずに対応できているか、今一度考えてほしい」と述べた。検証の原点とすべき言葉である。

2025年5月6日付産経新聞【主張】を転載しています

This post is also available in: English

コメントを残す