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一時戒厳令を宣布して韓国内で批判されている尹錫悦大統領への弾劾訴追案が、韓国国会で可決された。大統領権限は停止され韓悳洙首相が代行する。
憲法裁判所が180日以内に弾劾の是非を決める。認められれば尹氏は失職し、大統領選が実施される。
弾劾手続きと並行して、内乱事件の容疑者として尹氏への捜査も進行中だ。拘束、逮捕される可能性もあり、韓国政治の混乱が続くのは必至だ。
こうした中、忘れてはならないのが北東アジアの厳しい安全保障環境である。
北朝鮮は公式メディアで、韓国の戒厳令宣布について「独裁の銃剣を国民に突きつける衝撃的な事件」「韓国社会の脆弱(ぜいじゃく)性が露見」と報じた。自国の体制の優位をアピールしたかったのだろうが、独裁国家である北朝鮮にその資格はない。
韓国の前国防相は内乱の疑いで逮捕された。韓国軍の規律の緩みも指摘される。北朝鮮がこれに乗じて、SNSや韓国内に扶植したスパイを利用して世論工作を仕掛けたり、軍事挑発に走ったりする恐れがある。警戒は怠れない。
尹氏は12日の談話で「国民に危機的状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」と戒厳令を正当化した。「弾劾であれ、捜査であれ、私は堂々と立ち向かう」と述べた。
自身の任期を与党側に一任するとしていた方針を翻し、大統領職にできる限りとどまる姿勢を示したとみられている。
これにより尹氏は、早期退陣で混乱の収拾を目指した与党側とも対立することになった。14日の採決では、尹氏の強硬な態度に少なくとも12人の与党議員が弾劾への賛成に転じた。
親北左派の最大野党「共に民主党」の李在明代表は尹氏による戒厳令正当化を「国民への宣戦布告」と批判した。
李氏は、次期大統領の有力候補のひとりと目されるが、公選法違反で有罪判決を受けている。半年以内に予想される上告審判決で有罪が確定すれば被選挙権を失う。
尹氏が大統領にとどまる姿勢を示し、李氏が弾劾を急いだのは、次期大統領選をにらんだ政争の性格がある。
日本は韓国の政情不安が当面続くと覚悟し、用心して外交防衛政策を進める必要がある。
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2024年12月15日付産経新聞【主張】を転載しています
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