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テロリズムの容認やネット上の中傷の蔓延(まんえん)が、新たな事件を誘発している。テロや中傷は徹底的に憎み、社会から排す努力を続けなくてはならない。
自民党の佐藤正久参院議員に令和4年7月27日ごろ、「安倍晋三を斃(たお)すことができました」「今度はあなたの番です」などと記した手紙を送りつけたとして、警視庁は脅迫の疑いで、北海道立高校教諭の男を逮捕した。
安倍元首相は同月8日、山上徹也被告に殺害されていた。
男は山上被告を「わが教祖」と記し、調べには「佐藤議員の言動が日本国憲法や基本的人権をないがしろにしていると立腹していた」などと容疑を認めているという。
安倍氏銃撃事件では、その直後から旧統一教会に家庭を破綻させられた被告の成育環境に同情する声があり、「犯行はテロではなかった」とする間違った言説がメディアでも横行した。ネット上では被告を礼賛する書き込みもあふれた。
佐藤議員への脅迫は、こうしたテロの肯定や賛美という誤った言説に影響を受けた可能性が高い。安倍氏銃撃は、政治的宗教的主張を暴力に訴えた、明白なテロ事件である。
テロ対処の要諦は、テロリストの主張に耳を傾けないことである。この点で安倍氏銃撃事件への社会の反応には大きな瑕疵(かし)があった。
実際に事件は昨年、岸田文雄首相(当時)への爆弾テロ事件も誘発した。
一方で東京・池袋の乗用車暴走事故をめぐり、妻子を亡くした遺族男性を名指しして「殺してあげようか」などのメールを約10通送信したとして、警視庁は横浜市の中学3年の少女を、脅迫と威力業務妨害の疑いで書類送検した。少女は直後に「ひどい発言をして申し訳ありません」と謝罪メールも送っていたというが、一度吐いた言葉はのみ込めない。
これもネット空間に氾濫する「氏ね」「シネバ」といった罵詈(ばり)、中傷の数々がハードルを下げてはいないか。「保育園落ちた日本死ね」といった書き込みを「魂の叫び」と多くのメディアがもてはやした過去もある。多くの五輪選手もまた、誹謗(ひぼう)や攻撃の対象となった。
悪(あ)しき風潮を止める手立てを社会全体で考えたい。
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2024年12月7日付産経新聞【主張】を転載しています
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