This post is also available in: English
ドジャースの大谷翔平がナショナル・リーグの最優秀選手(MVP)に選出された。
指名打者(DH)専任での受賞、3度目の満票による選出、両リーグにまたがる2年連続の受賞は、全て大リーグ史上初だ。
あまりの快挙に忘れそうになるのは、今季の大谷が右ひじ手術からリハビリ中の投手だったことだ。MVPの発表番組で「来季はサイ・ヤング賞(最優秀投手)も」と振られると、「そうなれば最高」と答えた。この応答を、もはや誰もジョークとは受け取らない。無限の可能性に、言葉もない。
大谷の母校、岩手県の奥州市立姉体(あねたい)小の少年野球チーム代表は「こんな人がここで生まれたなんて信じられない」と感想を述べたが、それは日本人全体の感慨だろう。「人類」にその域を広げれば、世界中の野球ファンの思いかもしれない。
ドジャースの共同オーナーでもあるバスケットボール界のレジェンド、マジック・ジョンソン氏は米トーク番組で「大谷は今まで野球を見てこなかった新規のファンを増やしている。唯一比較できるのはマイケル・ジャクソンだ」と評した。すでにスポーツの枠を超えている。
MVP3回、本塁打王5回のアレックス・ロドリゲス氏は今月来日し「言葉をいくら探しても彼を説明できない。強いて言えばロジャー・クレメンス(サイ・ヤング賞7回)、バリー・ボンズ(歴代最多本塁打)、リッキー・ヘンダーソン(歴代最多盗塁)を合わせたような選手だ。見たことがないという意味で、彼はユニコーン」と大谷を伝説上の一角獣に例えた。
専属通訳の違法賭博発覚に始まり、二刀流を封印しての打席専念、前人未到の「50本塁打50盗塁」の達成、左肩の脱臼、悲願のリーグ優勝、ワールドシリーズ制覇と波瀾(はらん)万丈だった今季を振り返り、印象に残った場面を問われて大谷は「一番緊張したのは、デコピン(愛犬)の始球式」と答えた。そんな愛嬌(あいきょう)もまた、本場米国のファンをとりこにしている。
来季に向けては「スタートから投げる、打つことが目標」と二刀流の復活を約束した。開幕を楽しみに待つしかない。日米のみならず、世界中が不安定要素に覆われる中、大谷翔平という明確な希望を共有できる野球ファンは幸福である。
◇
2024年11月23日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English