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人のお金を預かる銀行は顧客からの信頼によって業務が成り立っている。その信頼を裏切り、事業基盤を根底から揺るがしかねない不祥事が起きた。
銀行業界最大手、三菱UFJ銀行の行員による貸金庫からの窃盗である。
同行によると、令和2年4月から6年10月までの約4年半の間に、東京都内の2支店で貸金庫を利用していた顧客が被害に遭った。被害額は時価で十数億円としていたが、さらに拡大する恐れがあるという。顧客の金品を盗んでいたのは40代の店頭業務責任者の女性行員で、懲戒解雇された。
行員は、銀行で保管する予備の合鍵を悪用して金庫を開けていた。同行は厳格な管理ルールを設け第三者による定期チェックの仕組みも導入していたが、実際には機能していなかった。今後は合鍵を本部で一括管理するといった対策をとるとしているが、不正を防ぐための仕組みが甘かったことは否めない。
半沢淳一頭取は12月16日に開いた記者会見で「信頼、信用という銀行ビジネスの根幹を揺るがすものと厳粛に受け止めており、心よりおわび申し上げる」と述べた。こうした事態を招いた経営責任は免れまい。
同行は今回の不祥事だけでなく、系列証券2社と顧客企業の非公開情報を無断で共有するなどの法令違反が判明し、金融庁から6月に業務改善命令を受けている。
いずれも個人の問題として矮小(わいしょう)化すべきではない。行員の倫理観が薄れているとすれば、深刻な問題である。まずは不祥事が続いた真因を突き止め、そのうえですべての行員に対して職業倫理に関する再教育を行うなど信頼回復に全力を挙げなければならない。
同行に限らず、高い倫理観が求められる金融機関で、このところ不祥事が相次いでいる。
野村証券は、広島支店で勤務していた社員が顧客に対する強盗殺人未遂と放火の罪で起訴された。三井住友信託銀行の管理職だった社員はインサイダー取引をしていた疑いが判明し、懲戒解雇されている。
自分の欲望のために、信頼を裏切る行動をとるとは言語道断だ。信頼こそが、金融機関の生命線である。そのことを、すべての業界関係者が改めて肝に銘じてほしい。
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2024年12月23日付産経新聞【主張】を転載しています
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