Yoon Suk-yeol on December 4

12月4日未明、ソウルの大統領府で「非常戒厳」解除を発表する韓国の尹錫悦大統領(聯合=共同)

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戒厳令の発出は深刻な過ちだった。これをきっかけに隣国韓国の政情が不安定化することを懸念する。

韓国の尹錫悦大統領は12月3日夜、革新系最大野党「共に民主党」が、多数派を占める国会を利用し、国政や司法を麻痺(まひ)させているなどとして、非常戒厳を宣布した。与野党は強く反発し、国会で4日未明、解除要求を決議した。尹氏は宣布から約6時間後に戒厳令を解除した。

尹氏は戒厳令について「北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守る」とした。戒厳司令部の布告は「自由民主主義や国民を守る」ために、一切の政治活動などを禁じた。

だが、今回の戒厳令の方が自由と民主主義に反しており、出すべきではなかった。軍事政権による戒厳令は過去の話だったはずだ。先進国の一員と見られるようになっていた韓国の戒厳令騒動は、国のイメージ低下も招こう。

韓国の尹大統領(左)と、金建希夫人(聯合=共同)

戒厳令の権限は大統領にあるが要件を満たしていたとはいえない。正当性が感じられないからこそ、野党に加え、与党も世論も批判しているのだろう。

朝鮮戦争は休戦中で、韓国は今、北朝鮮などと交戦状態にない。南北の体制間競争は韓国が圧倒的に優勢だ。大規模な騒乱や災害に直面してもいない。

尹政権は大統領夫人の疑惑や、野党による閣僚などへの相次ぐ弾劾要求で立ち往生していた。支持率は低迷していた。

訪朝したロシアのプーチン大統領を出迎えた金正恩総書記=6月19日(ロイター)

事態打開へ戒厳令に頼ったのであれば、あまりに唐突で理解できない。北朝鮮のスパイが国内にいるなら通常の手続きで捜査、摘発すればよかった。尹氏は民主主義国の為政者失格の烙印(らくいん)を押されても仕方ない。

尹政権発足後、日米韓3カ国は安全保障協力を強めてきた。北朝鮮の脅威を抑止し、「台湾海峡の平和と安定」を守る上で必要だったからだ。

韓国の混乱で日米韓の結束は乱れたとみて周囲の専制国家が挑発してくる恐れがある。日本政府や自衛隊は警戒を怠らないでほしい。

韓国は混乱を早期に収拾すべきである。主要野党は尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。可決されれば、憲法裁判所が罷免の可否を判断する。求心力を失った尹氏は事態収拾のため進退を決断しなければならないのではないか。

日米韓首脳会合で記念写真に納まる(左から)韓国の尹錫悦大統領、米国のバイデン大統領、石破茂首相=11月15日、リマ(内閣広報室)

2024年12月5日付産経新聞【主張】を転載しています

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