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愛媛県が〝防災県〟の地位を確立しつつある。防災啓発や災害発生時に地域のリーダーとしての活躍が期待される民間資格「防災士」の県内登録者数が今年10月末現在で2万4835人に達し、10倍以上の人口を抱える東京(2万4742人)を抜いて都道府県別で1位となった。幅広い職種向けに続けてきた取得支援が功奏。実際の災害現場でも防災士が活躍をみせており、中村時広知事は「市町や企業と連携し地道に取り組み、快挙の達成となった」と喜ぶ。
高校生も受講
「子供連れの避難者はどうする?」「テレビは人通りの多い場所にしよう」
11月上旬に愛媛県四国中央市で開かれた防災士養成講座。約80人の参加者は班ごとに分かれ、災害時を想定して避難所となった学校内のどこに居住場所や仮設トイレ、受付などを配置するかのシミュレーションに熱心に取り組んでいた。
15分の作業時間が終わると、防災士を認定するNPO法人「日本防災士会」(東京)の講師が「災害時は次々に状況が変化する。正確性よりも拙速な判断が求められる」などと説明した。
講座では「地震・津波への備え」「気象災害・風水害」「ハザードマップと災害図上訓練」などのカリキュラムを2日間かけてみっちり学んだ。
参加者は公務員や民間企業の従業員、学生などで、職業や年齢もさまざまだ。自主防災組織の推薦枠で受講したという同県立三島高校3年の岸本倖来(ゆきな)さん(18)は「覚えることが多くて大変だけど、災害が起きたときには学んだことを生かしたい」と話した。
初の1万人突破
防災士は、災害への備えや避難、救助などについて必要な知識と技術を身に付けるための民間資格。「自助」と「共助」の重要性が指摘された平成7年の阪神大震災を教訓に、防災リーダーの育成による地域防災力の向上を目的として14年に創設された。資格取得には日本防災士機構が認証する研修講座や救急救命講習を受講し、資格試験に合格した上で認証登録が必要となる。今年10月末現在で29万8682人が登録しているという。
県は23年から、南海トラフ地震などへの備えを進めようと、市町と連携して県民への防災士の資格取得支援を開始。各地域の自主防災組織の推薦者を対象に、研修講座を無料で開催し、教材や受験・登録費用などは市町が負担する形で防災士の育成に取り組んできた。
25年度以降は市町立学校の教職員や県教育委員会、県庁の防災部局職員と徐々に対象を広げ、県の防災士登録者数は30年度に1万人を突破した。
さらに令和元年度からは民間企業の推薦者、6年度からは県警職員にまで対象を拡大。近年の災害激甚化を受けた防災意識の高まりもあり、登録者数は増加を続け、今年10月末にはついに東京都を93人上回って都道府県別で最多となった。市町村別では松山市が今年8月に全国の市区町村で初めて1万人を超えた。
犠牲者ゼロに
人口約128万人の愛媛県で、県民の50人に1人が防災士の資格を持っている。「災害対応力は確実に高まっている」と県の担当者は胸を張る。
実際、平成30年の西日本豪雨の際、松山市高浜地区では地区の防災士が率先して避難誘導を呼びかけたことで甚大な住宅被害が出たにもかかわらず、1人の犠牲者も出なかった。今年4月に県内で初めて震度6弱を観測した地震の際にも、防災士が率先して高台への避難を誘導したという。
県は地域防災力のさらなる向上のため、防災士のスキルアップ研修なども定期的に行っている。
中村知事は「自然災害は激甚化・頻発化しており、南海トラフ地震の発生も懸念される中、防災士の役割はますます重要になっている」と強調。「『防災・減災対策に終わりなし』との認識のもと、オール愛媛体制で地域防災力のさらなる向上に取り組む」と意気込んでいる。
筆者:前川康二(産経新聞)
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