冠雪した富士山の山頂付近(共同通信社ヘリから)
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長期的な停滞から抜け出し、安定的な成長軌道に踏み出せるのか。転機を迎えた日本経済にとって重要な1年となる。
昨年12月、日銀が追加利上げを決断した。借り入れ負担が増す利上げは国民生活や企業経営に影響する。判断を誤れば、景気の腰折れにつながりかねない。日銀の追加利上げは日本経済が正常化に向かっている表れといえる。

だが、日本経済にはなお大きな重しが横たわる。長引く物価高騰と、それに伴う実質賃金のマイナスである。
中小企業がカギを握る
令和7年までの過去3年間、春闘では高水準の賃上げが実現したが、物価変動を加味した実質賃金はマイナスが続く。昨年は統計が出ている10月まで一度もプラスに浮上しなかった。
こうした状況を背景に、8年度税制改正大綱には所得税が発生する「年収の壁」を178万円に引き上げるなど家計支援の減税策が並んだ。
もちろん、手取りを増やす政策は必要だ。
だが、実質賃金をプラスに引き上げるために何よりも求められるのは物価上昇を上回る賃上げである。現状を変えなければ、個人消費を起点にした経済の好循環を実現することは難しい。
日銀の植田和男総裁が「春闘でしっかりとした賃上げが実施される可能性が高い」と述べたように、企業は賃上げを重視する姿勢を変えていない。大企業は堅調な業績を維持しており、高水準の賃上げを継続できる余力が十分にある。
問題は、雇用の7割を占める中小企業である。利益をどれだけ人件費に回したのかを示す「労働分配率」は大企業が3割台なのに対し、中小・零細企業は7~8割台に達している。賃上げ原資を生み出すには、生産性向上が不可欠だが、一朝一夕にできるものではない。
早期に賃上げの裾野を広げるには、上昇した中小企業のコストを取引価格に適正に転嫁することが求められる。中小企業庁の調査によると、中小企業がコストを価格に反映できた割合を示す「価格転嫁率」は昨年9月時点で53・5%に過ぎない。全く転嫁できなかった中小企業は16・8%に上っている。
1日からは下請法の名称が変わり、「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行された。名称だけでなく、取適法では協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に加わった。

取引企業が賃上げできずに人手不足に陥ったり、業績悪化で設備投資が滞ったりすればサプライチェーン(供給網)の弱体化を招く。困るのは大企業などの発注する側にほかならない。中小企業のコスト受け入れは、持続的な成長に不可欠な投資であると認識してほしい。
そのためにも、日本企業は自らの稼ぐ力を強化しなければならない。
官民連携で反転攻勢に
米トランプ政権の高関税政策の影響を受けながらも、堅調な業績を上げている日本企業は少なくない。底力を示したともいえるが、世界市場で戦うにはなお力不足だ。
人口減少社会に入った日本経済が活力を取り戻すには、イノベーション(技術革新)によって国際競争力を高めることが欠かせない。企業は現状に満足することなく、研究開発や設備投資に資金を振り向け、トランプ関税に備えた「守りの経営」から「攻めの経営」に転じてもらいたい。
物言う株主(アクティビスト)をはじめ、市場からの利益還元圧力が強まる一方だ。成長投資を拡大するには、市場の理解を得ることが求められる。その際には資金の使途と、投資による収益向上の道筋を丁寧に説明する確固たる成長戦略が必要であることは論をまたない。
高市早苗政権は人工知能(AI)・半導体や造船といった17の戦略分野を指定し、官民が連携して重点的に投資する成長戦略を進めようとしている。経済的威圧を強める中国に対抗するためにも、官民が連携して日本企業の潜在力を引き出そうとする試みは重要だ。
官民連携の取り組みでは、次世代半導体の国産化を目指すラピダスが政府の支援を受けて短期間で試作の成功にこぎつけるなど成果も見え始めている。民間企業が大胆な成長戦略を描き、政府が必要な支援を行う。そうした取り組みを積み重ねることで、日本経済反転の1年としたい。
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2025年1月3日付産経新聞【主張】を転載しています
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