
夕日に照らされる能生漁港=新潟県糸魚川市
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薄明の空。軒を連ねる家々に柔らかな夕日がさす。ひっそりとした漁村には、どこか異国情緒が漂う。新潟県の西の端、糸魚川市小泊地区にある能生(のう)漁港。斜面に家々が密集する姿がイタリア南部の世界遺産「アマルフィ海岸」に似ていることから、「東洋のアマルフィ」とも呼ばれている。
港はベニズワイガニで屈指の水揚げ量を誇っていて、古くから県内有数の漁村として栄えてきた。


港では全国的にも珍しい昼セリが行われており、能生をはじめ近隣の筒石などでとれた魚が見られる。セリの様子を施設内で見学することもできる。

海にせり出すような家並みは、山の斜面を何段にも整地して建てられ、「5段造り」と呼ばれる。狭い路地は迷路のようで、観光客にも人気だという。

しかし昭和38年には、その地形ゆえに、大規模な地すべりが発生した。家々が崩れ落ち、旧国鉄北陸線(現えちごトキめき鉄道)を走行中の列車は海岸まで押し出された。そのときに発生した土砂を利用してできたのが、現在の漁港だという。


能生町(現糸魚川市)出身で、地元の風景を写真に撮り続けている高野邦夫さん(77)はこう話す。
「能生は山と海と人々が共存する土地です。町並みなどは時代とともに少しずつ変化していきました。しかし、その共存は昔から変わりません」

現在、小泊地区には約400人が暮らしているが、高齢者が多く、空き家も増えているという。


「人口減少をはじめ、さまざま問題がありますが、地域と連携して町を盛り上げていきたい」と話すのは、小泊地区公民館の金子昌浩館長(65)。父親は漁で生計を立てていたという。県内の旅行会社と協力して町の魅力を生かしたツアーを組むなど、集客に努めてきた。

R山と海、そして、人。三位一体で育んできた港町は、古き良き日本の景観を今にとどめていた。
※高野邦夫さんは9月27日に急逝されました。
筆者:鴨志田拓海(産経新聞写真報道局)
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