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「強い横綱」であることは確かに大事だ。同時に、土俵の内外で模範となる存在でなければならない。
大相撲の第74代横綱となった豊昇龍は、昇進の伝達を受けた口上で「横綱の名を汚さぬよう、気魄一閃(きはくいっせん)の精神で精進いたします」と述べた。地位に安住することなく、心技体を鍛錬し続ける覚悟と受け止めたい。
綱取りの懸かった初場所は、中盤までに3敗する苦しい展開だった。千秋楽の本割で首位に並び、時間をあけずに行われたともえ戦で平幕の金峰山と王鵬を力強く連破した。
柔道やレスリングで磨いた機を見るに敏の投げ技と足技、柔軟な体さばきは、叔父の元横綱朝青龍に重なる。ここ数場所の取り口に備わった力感と、大崩れしない精神的な強さにも目を見張るものがある。
しかし、安定感では及第点に遠い。初場所の3敗は平幕相手だった。「大関で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」という昇進基準(内規)を満たしているとはいえ、9人全員が推挙に賛成した横綱審議委員会の評価は、かなり甘い。
けがに苦しんだ横綱照ノ富士が初場所途中で引退し、次の春場所は32年ぶりに横綱が空位となる恐れもあった。そのような事情が昇進を後押ししたという一部の声も、あながち的外れとはいえまい。
新横綱に向けられる視線は、それゆえ厳しいものになる。以前は仕切りの駆け引きで相手をじらすなど、見苦しい所作が目についた。
今後は高いレベルでの優勝争いを牽引(けんいん)するだけでなく、最高位にふさわしい品格が一挙一動に求められる。
モンゴル出身の横綱では、朝青龍が史上初の7連覇を成し遂げ、白鵬(現宮城野親方)が歴代最多45度の優勝を果たすなど大きな足跡を残してきた。
一方で暴力や品格に欠ける振る舞いにより、国技の伝統に汚点を残したのも事実だ。暴行がもとで引退した朝青龍らを、戒めとすべきだろう。豊昇龍は心技体の全てにおいて自身を厳しく律し、長く愛される横綱を目指してほしい。
昇進で後れを取った琴桜と大の里の両大関にも一層の奮起を望みたい。好角家が何よりも期待しているのは、ライバルがしのぎを削る土俵である。
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2025年1月30日付産経新聞【主張】を転載しています
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