
ひな人形の屏風などを手掛ける片岡屏風店(墨田区)の3代目、片岡孝斗さん=3月5日午後、東京都墨田区
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ひな人形や五月人形を際立たせる、美しい金屏風(びょうぶ)。墨田区にある片岡屏風店は、80年近く日本の美を伝え続け、今では都内唯一となった専門店だ。片岡孝斗さん(36)は3代目として伝統をつなぐ一方、時代の変遷の中で海外への魅力発信や販路拡大など、新たな試みを続けている。
都内唯一の工房
「コンパクトで、かつ完全に空間を仕切らず、人と『つながる』雰囲気。それも、屏風特有の文化ですかね」
「風をふせぐ」という意味を持つ屏風は、日本では奈良時代から伝わるという。風よけや間仕切りなど日用品としての役割や慶事の装飾品のほか、時に芸術作品を描くキャンバスにも。折りたたまれることで保存性に優れ、文化財級の「屏風絵」も少なくない。
片岡屛風店は、戦後間もない昭和21年、墨田区向島で片岡さんの祖父が専業で起こした。表具店が製作するケースはあるが、屏風制作・販売を専門とする工房は現在、都内で唯一という。
創業当初はひな人形や五月人形などを飾る節句用の屛風を手掛けていたが、2代目の父の代で、高度経済成長期で高まったホテルや結婚式場の需要に応じ、慶事用の大型の金屏風も手掛けるようになった。
「父の代には、一般の方にも知ってもらおうと店舗1階をショールームにした経緯もあります。BtoC(個人向け)事業が始まり、以後、問い合わせが増え、着物や絵画作品を屛風に仕立てる仕事も受けてきました」。販路を開こうと、着物や帯などを用いる「メモリアル屏風」やオーダーメードにも対応してきたという。
海外留学転機に
「和」の文化を語る片岡さんだが、実はDJをするほど、子供のころからヒップホップなど海外音楽に感化されてきた。家業に強い関心はなかったが、転機は高校生のころ。米国に語学留学したときの反省があるという。「いろいろな国の方がいた。日本について聞かれたが、トラディショナルな話題に答えられなかった」
一方、業界は核家族化、住宅事情の変化から需要が低迷。安価なひな人形も増える中で、従来の市場は縮小、取引する木工店なども減少しつつあった。「文化」「伝統」を考え直すと、家業をつないでいく大切さに改めて気づかされたという。
大学在学中に、「日本の文化を体現できたら」と家業を継ぐことを宣言。そして「外から日本を見たい」と再度渡米し、帰国後、付き合いのあった工場への勤務などを経て、3代目となった。

自由な「解釈」で
近年は、漫画やアニメをあしらった作品や、企業の記念用屏風など、新たな取り組みも始めた。「顔となる商品の存在が必要」と、ひな人形を模したマグネットを貼れる、屏風を「主役」とした「扇-SENN(せん)」という新商品も展開。今年1月にはオンラインストアも開設した。
「右肩下がりですから、アート寄りのモノづくりと会社経営の両立は悩んでいるところです」と吐露するが、成果として、「海外との接触を増やしたこと」を誇る。スウェーデンで現代アーティストとのコラボレーション作品に関わるほか、フランス、ベルギー、スイスなど欧州から個人向けの受注も多い。
売り上げのうち、節句用は4~5割、オーダーメードは3~4割、海外からの注文は全体の3割を占める。「つなぎ目がいいらしい。まっすぐに広げた形で壁に飾る方もいた」と海外客が見いだす新しい価値にも驚かされた。
「屏風の『解釈』は自由です。国内需要が難しい中、海外に出して、『そういう飾り方もあるんだ』と。国内に価値観を逆輸入して、私が発信していけたらいいなと思いますね」。3代目の挑戦は終わらない。
筆者:海野慎介(産経新聞)
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