トランプ米大統領と中国の習近平国家主席=2025年10月、釜山(ロイター)
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トランプ米政権がベネズエラに軍事攻撃し、同国の独裁者、マドゥロ大統領を拘束したのは国際法違反だとする批判が日本の言論界や政界では多いが、きれい事では何の解決にもならない。
国際的なルール無視という点では習近平政権の中国のほうがもっと甚だしい。今回の米国のベネズエラ攻略は中国の粗暴な対外膨張路線に対する初めての本格的作戦という意義があると認識すべきだ。
「一帯一路」中南米の橋頭保
まず知るべきは、ベネズエラが習政権の拡大経済圏構想「一帯一路」の中南米の橋頭堡(きょうとうほ)であることだ。同国は反米左派のチャベス氏が1999年に政権を奪取したが、2005年以来、米国の経済制裁を受けてきた。経済不振に陥ったのをみて割り込んできたのが中国だ。習氏が党総書記に就任した12年からベネズエラ向けインフラ投資が本格化した。経済協力と引き換えに石油を引き取るというわけだが、13年に死去したチャベス氏の後継、マドゥロ政権の下、原油価格の暴落とともに破滅的な高インフレに陥った。しかも、汚職腐敗がひどく、約800万人の国民が米国など国を離れた。
米石油資本の撤退もあって原油生産は急減し、15年に日量250万バレルだったのが、19年80万バレル、20年50万バレル以下に落ち込んだ。投資回収がおぼつかなくなった中国資本も同年から撤退し始めた。それでも原油生産は22年の原油国際相場上昇とともに次第に回復し始め、25年には100万バレルまで上昇した。
中国の貿易統計をみると、ベネズエラ原油輸入は、19年10月以降24年初めまでゼロになり、同2月にスポット取引で輸入が再開したものの25年でも日量換算で1・5万バレルに過ぎない。だが、米調査機関などによれば、実際には原油生産の約8割を中国が引き取っている。米国の2次制裁を恐れた中国はベネズエラ原油の直接輸入を避け、「ブラジル産」を装ったり、マレーシア船舶を使った積み替えなどで原産地をごまかして、こっそりと輸入を続けてきたのだ。

中国側にはどうしてもベネズエラ原油を引き取らなければならない事情がある。中国は対ベネズエラ向けに石油融資190億ドルを含め約600億ドルの債権が焦げ付いている。原油輸入はその回収のためだ。しかも、価格は大幅に国際相場より値切っている。さすがに中国資本は計算高い。
米急襲、中国特使との会談直後
習政権がベネズエラ利権拡張策を再開したのは、25年8月だ。ロイター電によれば、中国の民営石油資本コンコード・リソーシズ・コーポレーション(CCRC)がベネズエラの油田開発で10億ドル超を投資する契約をマドゥロ政権と交わした。26年末までに日量6万バレルの生産をめざすという。
そして、この1月3日、首都カラカスに習政権の特使が派遣され、マドゥロ氏と会談し、経済協力の再開を約束した。米軍が急襲したのはその数時間後である。

トランプ大統領はマドゥロ拘束後ただちに、米国が同国を運営すると宣言した。そしてベネズエラの油田権益を米石油資本が掌握し、生産を回復させる。「私と習主席との関係はいい。中国には石油を売るから問題ない」と言い切った。
ここで、やはり米国は中国と仲良くするつもりだと早とちりしてはならない。トランプ政権は中国の石油など経済利権を封じ込める。そしてベネズエラ原油を高値で中国に引き取らせる。習政権は債権回収のためにそれを拒絶出来ない。中国は、「債務の罠」ならぬ「債権の罠」にはまったのも同然である。
トランプ戦略は習政権を米国の裏庭から追い出すと同時に中国のカネでベネズエラ経済を復興させる。まさに一石二鳥である。
筆者:田村秀男(産経新聞特別記者)
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2026年1月6日産経ニュース【お金は知っている】を転載しています
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