次期会長就任が決まり、会見するNHKの井上樹彦副会長=12月9日午後、東京都渋谷区(鴨志田拓海撮影)
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NHKの次期会長に同局政治部長などを務めた井上樹彦(たつひこ)副会長の昇格が決まった。来年1月に就任する。
同局は受信料収入に甘えた組織統治(ガバナンス)のゆるみがたびたび批判され、その改革は途上である。
内部出身者として18年ぶりに就任する新会長として、どこまで自己改革を徹底できるかが厳しく問われよう。
会長選考理由について、NHK経営委員会の古賀信行委員長は「収益をどう立て直すかという喫緊の課題について、しっかりした意識がある」と述べた。目前の課題解決を優先した形だが、NHKに求められているのは目先の収益ではなかろう。

確かに経営状況は厳しい。令和5年に受信料を1割下げた影響もあろうが、受信料は地上波契約で月約1千円、衛星放送を含めると約2千円と、安くはない。自局の都合や論理を振りかざしても理解は得られまい。公正な放送と、それを支える組織運営の改革を欠いては視聴者からの信頼獲得も遠い。
同局は平成16年に制作費着服などの不祥事が相次いだ。背景とされたのが、受信料にあぐらをかき、コスト意識やモラルの欠如を招いた組織体質だ。会長が6人連続で外部から登用されたのも、内部では思い切った改革が困難とみられたからだ。
グループ子会社を含めた組織肥大化の問題もある。会計検査院は子会社が多額の剰余金を抱えていると指摘した。その一部をNHKに配当すれば視聴者の負担抑制につながる可能性もあるが、改革は不十分である。
災害報道を含む公共放送の役割は大きい。一方で、日本をことさら悪く描くなどバランスを欠いた番組には批判がある。

最近も信頼を損ねる例が目立つ。長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を扱った番組では不適正な映像を使っていた。稲葉延雄会長は元島民の名誉を傷つけたとして謝罪したが、NHKはこの謝罪を報じていない。
ラジオ国際放送では、中国籍のスタッフが尖閣諸島(沖縄県石垣市)について、「中国の領土」などと暴言を吐いて放送を乗っ取る不祥事があった。稲葉会長は、一般企業なら「会社存続に直結する」としたが、同局は危機意識を共有したのか。
放送する番組のネット同時配信も始まった。適正な組織運営への改革が一層問われる。
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2025年12月12日付産経新聞【主張】を転載しています
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