
日航機墜落事故から40年。御巣鷹の尾根の麓にある「慰霊の園」で開かれた追悼慰霊式で手を合わせる遺族関係者ら=8月12日午後、群馬県上野村(相川直輝撮影)
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自らの職責を一体、どう考えているのか。航空機事故は乗客の生命に直結する甚大な被害を伴う。誰よりもそれを理解しているのがパイロットだったはずではないのか。会社の対応も甘すぎた。
日航国際線の機長がハワイ発便の乗務前日の8月27日、ホテルの部屋で568ミリリットルのビール3本を飲み、翌日、体調不良を訴えた。このため別のパイロットを手配したが、計3便に最大18時間を超える遅れが出て、乗客約630人に影響した。
日航では昨年4月、米国で機長が飲酒して騒ぎ現地警察から注意され、羽田便が欠航した。同年12月にはメルボルン発成田行き便の機長と副機長が飲酒して出発が遅れ、口裏合わせによる隠蔽(いんぺい)工作も判明していた。
日航は以降、滞在先でのパイロットの飲酒を全面禁止とした。過度な飲酒傾向のある社員を社内でリスト化し、管理を徹底するなどの再発防止策を国土交通省に提出していた。
今回のハワイ発便の機長はリストに「要注意者」として記載され、問題が起きる直近の面談で飲酒を控えるよう指導されていた。ホテルでは約60回実施した自主検査でアルコールの検知が続き、検知器を操作して日付の改竄(かいざん)までしていた。
機長は今年5月以降も滞在先で10回ほど飲酒し、自主検査の日付改竄も複数回確認された。なぜこのような機長の不正を見逃し、操縦を任せてきたのか、理解に苦しむ。あきれ果てるとともに、恐ろしくなる。

今年8月12日、乗客乗員520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故から40年となり、群馬県上野村の墜落現場「御巣鷹の尾根」の「慰霊の園」で追悼慰霊式が行われた。
式典後、日航の鳥取三津子社長は「40年だからではなく、50年、100年後も安全が大前提と胸に刻む」とした上で、機長らの過剰飲酒問題について「再発防止の結果が表れて初めて信頼される」と述べていた。
50年、100年どころか、その月のうちに安全を誓う日航の約束は破られ、信頼を自ら地に落としたことになる。
中野洋昌国交相は「社員一人一人に安全意識が徹底されていないと言わざるを得ない」と述べた。日航が信頼を回復するには、全社員が御巣鷹の決意に立ち返る必要がある。

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2025年9月9日付産経新聞【主張】を転載しています
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