megumi (3)

母の早紀江さんの着物を着せてもらい、自宅玄関前で記念撮影する横田めぐみさん。この10カ月後、北朝鮮に拉致された=昭和52年1月、新潟市

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めぐみちゃん、こんにちは。目まぐるしく日々は流れ、令和6年もあっという間に過ぎ去りそうです。今年も、あなたが北朝鮮に拉致された11月15日を迎えてしまいました。13歳で無残に連れ去られたあなたを救えないまま47年。何ものにも替えがたい人生を無慈悲に壊された怒り、悲しみ…。筆舌に尽くしがたい感情が渦巻き、押しつぶされそうになります。

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思い出にひたる時間、もうない

10月5日、あなたは60歳を迎えました。誕生日は、自宅に飾った写真のそばに、大きめのケーキを置いて祝ってきました。でも、お父さんが4年前に天に召されてからは、私1人では食べきれず、小さなケーキになりました。今年も、ひっそりとお祝いをしました。

「あのときはこうだったね」と、昔の思い出にひたる時期はとうに過ぎ去ったと感じています。とにかく、一刻も早くめぐみちゃんに会いたい。抱きしめてあげたい。それだけを願う日々です。

今年、日本の政治は大きく動き、与野党のリーダーの顔ぶれも変わりました。自民党の総裁選挙と立憲民主党の代表選挙に先立つ9月11日、私たち家族会と救う会は、拉致問題を真剣に取り上げるよう訴える記者会見を急遽、開きました。

政界のリーダー候補たちは日本の展望を語り、「われこそは」と支持を訴えていましたが、拉致解決への具体策や、意気込みを語る声は、ほとんど聞こえませんでした。

「このままで、本当にめぐみちゃんに会えるのだろうか」「願いがかなわないまま、拉致問題は幕引きとなり、私も天に召されるのだろうか」。激しい絶望に押しつぶされそうになりました。

こうした選挙に合わせ、私たちが発信したのは初めてでしたが、特定のどなたかを推すような意図は一切、ありませんでした。拉致問題が埋没しているという途方もない危機感の中で、周囲のご理解も頂き、場を設けたのです。

私は「もっと真剣にとらえてほしい。命がけで動いてほしい」と訴えました。願いをくんでか、街頭やテレビ討論で議題にのぼる機会が増えたように感じ、感謝の念に堪えません。

ただ、政治の動きに、物足りなさを感じてしまうのは事実です。

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「早紀江さん訴えが原点」石破首相の決意信じる

10月17日、私たちは石破茂首相と首相就任後、初めて面会しました。平成9年に家族会が発足してから、首相は13人目。長すぎる膠着(こうちゃく)を痛感します。

面会の席では、日朝首脳会談の早期実現を重ねて訴えました。両首脳が忌憚(きたん)なく、思いやりを持って、未来の展望に議論を尽くしていただきたいと思います。私たちの願いは「拉致問題の即時解決」という一点に尽きるのです。

石破首相は面会時、「平成14年9月17日の出来事」に言及されました。

日朝首脳会談後に東京都内で開かれた記者会見で娘の横田めぐみさんの生存を訴える早紀江さん。石破茂首相(前列右)は間近でその声を聞いていた=平成14年9月17日

北朝鮮の平壌で、史上初の日朝首脳会談が開かれたあの日。北朝鮮は拉致被害者5人の生存を明かす一方で、めぐみちゃんを含めた他の被害者について「死亡した」などと主張してきました。

東京で報告を聞いた私たち家族は、心の整理もつかないまま、国会の議員会館で記者会見を開きました。当時、拉致問題解決へ超党派の議員が結成した「拉致議連」の初代会長だった石破首相も同席されました。

家族それぞれが思いを語り、お母さんも懸命に声をあげました。

「いつ死んだかもわからないものを信じることはできません。まだ生きていることを信じ続けて闘っていきます」

この会見でそばに座っていた石破首相は、先の私たちとの面会で、「早紀江さんが涙で訴えたことが忘れられず、それが自分の拉致問題に対する思いの一番強い原点だ」と述べられました。

石破首相と膝詰めでお話しをしたことはなく、お人柄はよく知りませんでしたが、私たちの心情を理解されていると感じました。この熱意をたぎらせ、膠着した局面打開へと邁進(まいしん)してくださると信じています。

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トランプ氏にも後押し期待

戦禍が絶えない国際情勢は一層、混沌としています。拉致問題も思惑が入り乱れ、解決への道筋がかすんでしまうかもしれません。

お母さんは88歳になってしまいました。去年は過労で寝込み、体力の限界を痛感しています。有本恵子さんの父、明弘さんも96歳です。家族だけでなく、北朝鮮に捕らわれた被害者も、軒並み老いています。

「拉致事件は親世代で必ず決着する」。そう誓ったのに、老いた親世代は退き、家族会の活動は子供世代が担うようになってしまいました。この異常な事態を、直視していただきたいのです。

家族会は「全拉致被害者の即時一括帰国」を訴えています。

日本と北朝鮮それぞれに「連絡事務所」を置く提言がありますが、意味があるのでしょうか。北朝鮮はそもそも、拉致被害者を含め、国民全体を厳格に管理し把握しているそうです。

老いた私たちに長く待てる猶予はありません。北朝鮮が被害者を家族のもとに即刻帰せば、拉致問題は前に進むのです。

米国ではトランプ前大統領が再び大統領に就任することになりました。平成29年と令和元年に来日した際は、私たちと面会し、解決への尽力を約束してくださいました。

お父さんが天に召されたとき、トランプ氏からお悔やみが届きました。「めぐみさんを必ずご自宅に連れて帰るという重要な任務を続ける」。力強い思いを貫き、被害者帰国の後押しをいただけることを祈っています。

北朝鮮による拉致被害者家族会の(前列中央から右へ)横田早紀江さん、有本明弘さん、斉藤文代さんらと面会したトランプ米大統領(同左端)とメラニア夫人(右隣)=平成29年11月、東京・元赤坂の迎賓館(ロイター=共同)

国民の皆さま。日本は国難ともいわれる厳しい時代を迎えています。厳しい状況でも、北朝鮮で救いを待ち続ける子供たちに思いをはせ、拉致解決を心に描き、声を上げていただきたいのです。

国民世論の後押しがなければ、拉致問題は進展しません。政治家、官僚の方々は「国家の恥」をそそぐ気迫で、解決に取り組んでください。

めぐみちゃん。お母さんは「弱い心」にさいなまれることもありますが、何とか踏みとどまっています。どうか、体調にだけは気を付けて。再会の日は必ず来るから、それを信じて、お互いに元気で頑張ろうね。

筆者:横田早紀江

2024年11月15日付産経新聞に掲載された【めぐみへの手紙】を転載しています

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