地域的緊張が高まる中、ミアシャイマー教授は「理想的な世界では、日本は核兵器を保有しているはずだ」と述べた。
jpeg-optimizer_IMG_4077

コア・フォーラムで講演するミアシャイマー教授=12月13日、東京ビッグサイト(©The Core Forum)

This post is also available in: English

国際関係学を学ぶ学生や学者にとって、ジョン・ミアシャイマーの名を知らぬ者はいないだろう。国家を統制する最高権威は国際社会には存在せず、大国は生存のため最大限の力を求める――シカゴ大学の著名教授、ミアシャイマー氏が提示した「攻撃的現実主義(offensive realism)」は、国際政治を読み解く代表的理論として、世界各地の大学で教えられている。同氏の講演はオンラインでも広く共有され、なかには数千万回の再生に達するものもある。

しかし、米国の主流メディアや政策関係者の間で彼の名が語られる機会は少ない。その理由は知名度の問題ではなく、ミアシャイマー氏の主張が強い違和感を伴うためだ。

分析の厳密さには定評がある一方、同氏の見解は米国の外交政策論と鋭く対立する。地政学を国際政治の根本原理に据え、リベラル・インターナショナリズムや新保守主義(ネオコン)の前提を退ける立場は、主流の議論に必ずしも歓迎されるものではない。

昨年12月13日、その特徴的な手法は東京でも鮮明に示された。11年ぶりに来日したミアシャイマー氏は、コア・フォーラム主催の講演会で、現代日本が直面する国際情勢について率直な見解を示した。

「我々はいま、多極化した世界に生きている」――ミアシャイマー氏はそう切り出し、冷戦後に米国が享受してきた圧倒的な優位性は、もはや失われたと指摘。そのうえで、中国は「事実上の対等な競争相手」であり、「米中間の競争関係が今世紀の国際政治を規定していく」と語った。

米戦略文書も、こうした認識を反映している。2018年以降、国防総省は対テロから大国間競争へと重点を移し、22年には中国をアメリカのの主要な「ペーシング脅威(pacing threat)」と位置付けた。

そこには、中国の急速な軍事力増強や海軍力の拡大(艦艇数では世界最大)、さらに強硬さを増す地域姿勢が、インド太平洋全域の安全保障環境を大きく変えてきた経緯がある。

石垣市の海洋調査船に近づかないよう中国海警船(右)の進路をふさぐ海上保安庁の巡視船「かびら」=2024年4月、尖閣沖(大竹直樹撮影)

ただ、ミアシャイマー氏が通説と一線を画すのは、北京の行動に対する見方だ。現在の議論の多くが、中国の行動を特異な悪意に基づくものと捉えるのに対し、同氏はそうした枠組みを退ける。

「日本や米国には、中国を一方的に悪者扱いする傾向が強い。しかし、それは国際政治を考える上で根本的に誤った見方だ。中国は自国の生存可能性を最大化しようとしているにすぎない」と語った。

同氏の理論によれば、包括的な権威が存在しない国際システムでは、大国は生存のため力を最大化せざるを得ない。こうした観点から、中国が地域的支配を目指し、アメリカの影響力を抑えようとする動きを、必然的な帰結と見なしている。

主張を強めるため、ミアシャイマー氏は日本の歴史上の敏感な時期に言及した。もし今日の日本が周辺諸国を圧倒する強国であったなら、中国と同じく地域覇権を追求しただろう――まさに1868年から1945年にかけて日本が行ったのと同様に。

導かれた結論は明快だった。日本や米国、そして志を同じくする同盟国は、あらゆる手段で中国の地域覇権確立を阻止するべきだが、その過程は必然的に、核保有国である中国と対立することになる。

第一列島線と第二列島線(青色のハイライト)(©ハドソン研究所)

さらに複雑なのは、その戦略的課題を実行に移す点だ。中国の影響力を抑えることは容易ではなく、何より対立は常にエスカレーションの危険を孕む複数の火種に集中しているからだ。ミアシャイマー氏は、特に尖閣諸島、南シナ海、台湾を例に挙げる。

なかでも、台湾を最も重要と位置付ける。ミアシャイマー氏によれば、台湾を掌握すれば、中国は第一列島線を超えて軍事力を投射する能力を飛躍的に高め、地域の勢力均衡を決定的に北京有利に傾けることになるという。

それでも同氏は、中国による台湾侵攻や封鎖の成功が保証されているわけではないと強調する。通常戦力では日米台が依然として優位にあり、三者が全面的に協調して防衛を展開すれば、中国が少なくとも近い将来に台湾を征服することは不可能だと分析した。

この現実は、現在の米国インド太平洋戦略で台湾が中心に位置付けられている理由と一致する。台湾は、民主主義陣営や技術的価値にとどまらず、地域の極めて重要な地政学的拠点である。

米国は数十年にわたり、台湾に対して「戦略的曖昧性(strategic ambiguity)」を維持し、中国が攻撃した場合に軍事介入するかどうかを意図的に明言してこなかった。だが、実際にはその曖昧性は着実に縮小しつつある。

米空母「ジョージ・ワシントン」を訪問した高市早苗首相とトランプ米大統領=2025年10月

前任のバイデン大統領は在任中、台湾が攻撃された場合に米国が支援に動くことを公に繰り返し表明し、軍事コミットメントをより明確化した。後に政府当局者が発言を調整する動きを見せたものの、ミアシャイマー氏は「中国へのメッセージは明白だった」と指摘する。

現在のトランプ政権下では対台湾政策の先行きは予測しづらいが、戦略の基盤は揺るがない。同政権は台北への大規模な武器販売を引き続き承認しており、最新の米国家安全保障戦略でも「台湾をめぐる紛争を、理想的には米国の軍事的優位性を維持することで抑止することが優先課題」と明記している。

ミアシャイマー氏は、こうしたシグナリングこそ抑止の核心だと考えている。同じ論理を日本にあてはめ、11月7日の国会答弁で「台湾有事」が日本の存亡を脅かす可能性に言及した高市首相を称賛し、その発言を「賢明だ」と評した。

侵略の結果を明確に示すことで、「戦争の可能性は低くなる」。中国が戦争を始めれば、ほぼ確実に敗北するだろう、と指摘した。

おそらく講演で最も議論を呼んだのは、ミアシャイマー氏が核兵器の問題に踏み込んだ瞬間だろう。長年タブー視されてきたこのテーマは、もはや無視し続けることが難しくなっている。

「理想的な世界では、日本は今、核兵器を保有しているはずだ。なぜなら核兵器は究極の抑止力だからだ」、とミアシャイマー氏は淡々と述べた。

このような発言は、戦後の日本の言論空間では考えられなかったであろう。にもかかわらず、聴衆からは持続的な拍手が湧いた。原爆の惨禍を痛感する国として、この反応は全面的な支持というよりも、日本列島を取り巻く安全保障環境への高まる不安の表れのように見えた。

ミアシャイマー氏と討論する参政党の神谷宗幣代表(左)(©The Core Forum)

推計によれば、中国は現在600発以上の核弾頭を保有しており、米国防総省は2030年までに1,000発を超える可能性があると分析。一方、北朝鮮は国際的な制裁を無視しつつ、核兵器とミサイルの開発を着実に進めている。

これに対し日本は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則に、形式的にとらわれたままである。

こうした現実を踏まえ、なぜアメリカが核武装した日本に反対し、今後も反対し続けると考えるのかをミアシャイマー氏は説明した。

「米国は、同盟国に関わる危機が発生した場合、日本が核の引き金を引く立場にないことを確実にしたいと考えている」と語る。望ましくない核対立にワシントンを巻き込むリスクを懸念しているのだ。

一方、抑止力は物理的な力だけでなく、信念にも依存すると付け加える。そしてその信念は両刃の剣だ。現行の枠組みでは、核紛争が起きた際に米国が自国の都市を危険にさらしてまで東京を守るか、日本は確信できない。

ミアシャイマー氏は、もし米政府が決定的な瞬間に躊躇すれば、日本が独自の核抑止力を獲得する「極めて強い動機」を抱くことになるだろうと言い切った。

かつては限られた範囲で語られていたこうした議論が、徐々に公の場でも取り上げられるようになってきた。ロイター通信は昨年8月、日本の非核三原則、特に核兵器の国内持ち込み禁止に関する原則の見直しについて、政治的・世論的な受容性が高まっていると報じた。

一部の政策立案者は、「持ち込ませない」原則を維持すると抑止力全体が損なわれる恐れがあると懸念している。

現時点で日本政府は非核三原則の維持を強調している。しかし、ミアシャイマー氏の発言に聴衆が強く共感したことは、漸進的とはいえ議論の境界線が確実に揺れ始めていることを示唆している。

著者:吉田賢司(JAPAN Forward記者)

This post is also available in: English

コメントを残す