Perfume Rhizomatiks AI Graphics (4)

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テクノロジーの進化とともにリアル/バーチャルの世界が交錯するなか、社会について、人間性(ヒューマニティー)について、私たちの認識や感性はこの先どう変化していくのだろうか。技術と表現の最前線から可能性を示してくれるのが、クリエーター集団「rhizomatiks(ライゾマティクス)」だ。テクノポップユニット、Perfume(パフューム)の近未来的ステージの映像制作や演出技術開発で知られるライゾマだが、その活動や表現は広範に及ぶ。結成15周年を記念し、その全貌に迫る「ライゾマティクス_マルティプレックス」展が東京都現代美術館(江東区)で開催中だ。

 

 

見えないものを可視化

 

ライゾマは主宰の真鍋大度(だいと)と石橋素(もとい)を中心に、プログラマー、エンジニア、デザイナーなどで構成される専門家集団。ハード・ソフトの開発からオペレーションに至るまで、プロジェクトの全工程を担う。

 

現代社会の目に見えない事象-とりわけ大量かつ複雑なデータを把握しやすく可視化した作品は、ライゾマの真骨頂だ。例えば2013(平成25)年に同館で発表した「traders」は、東京証券取引所の売買データを取得しリアルタイムで音と映像に変換したもので、意外な銘柄の連動なども一目瞭然。不可視のネットワークや動向をライブで感じられるようにした。

 

そして新作「NFTs and CryptoArt - Experiment」で扱うのは、最近話題の「クリプトアート」だ。NFT(代替不可能な暗号通貨)をひも付けることで、永続性や「一点もの」であることを保証したデジタルアートである。簡単に複製されてしまうデジタルアートも、ブロックチェーンの仕組みを使って固有の価値を持つと値は上がり、億単位のマネーが動く作品もめずらしくないという。今回の作品は、そんな沸騰するクリプトアートの取引の様子を、映像で可視化したものだ。

 

同展を企画した東京芸大大学院の長谷川祐子教授は言う。「私たちが想像もしなかった新しい仕組みの中で、高値で取引されるものは一体何なのか。買う人は誰なのか。そこから生まれる価値は何なのか…。それは現在進行形の問いなわけです」。変化の時代にあって実体のつかみにくいもの、多くの人にとって未知のものを、ライゾマはいち早く顕在化させるべく試みる。いま何が起こっているのかを広く共有するためのアートであり、判断は個々に委ねられる。

 

 

「新しい身体」求めて

 

リアルとバーチャルの境界や、テクノロジーと融合した「新しい身体」についても、ライゾマは一貫して考察と研究を続けてきた。世界的な歌手、ビョークが歌う様子を、彼女の口から見るという画期的なミュージックビデオ「Mouth Mantra」は、身体とデジタルの融合に対する両者の興味を反映した作品だろう。

 

本展のハイライトは、演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニー、ELEVENPLAY(イレブンプレイ)との共作「multiplex」だ。生身のダンサーの動きをモーションデータ化し、動く箱型ロボットや映像プロジェクションと組み合わせたインスタレーションである。

 

観客も取り込む多層的な見せ方で、リアルとバーチャルの境界はあいまいになる。それはくしくも、ポスト・コロナ時代の私たちの現実認識と重なって見える。リモート会議、リモート飲み会などが生活の一部になるなか、もっと人間のリアルな行動や感情に根差したオンライン・コミュニケーションのプラットフォームができないか、ライゾマの試行錯誤も続いている。

 

 

オンライン会場も

 

ライゾマは、他のアーティストと何が違うのか。「通常アーティストはコンセプトが先にあって、手段を後から考えるのに対し、ライゾマは新しい技術やメディアを使って何ができるのかを発想していく。逆なんです」と長谷川教授。もちろん、それは気が遠くなるようなトライ&エラーの連続だという。

 

15年の間に作られた貴重な基盤の数々など、アーカイブ資料や映像も見ごたえがある。地道な調査と研究開発を経て、新しい技術と美的な感性、批評精神をも含んだライゾマの作品ができるのだろう。

 

本展は美術館の実空間だけでなく、一部作品を「オンライン会場」で公開(詳細は同館ウェブサイトで確認を)。まさにリアルとバーチャルで楽しめる仕掛けになっている。

 

筆者:黒沢綾子(産経新聞)

 

 

6月20日まで。月曜と5月6日休館(5月3日は開館)。一般1500円、大学生・専門学校生と65歳以上は900円。中学・高校生500円。

 

 

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