令和8年度、与党の税制改正大綱を手に記者会見に臨む自民党の小野寺五典税調会長(右)と日本維新の会の梅村聡税調会長=12月19日午後、国会内(春名中撮影)
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自民党と日本維新の会の連立与党が12月19日に令和8年度税制改正大綱を決定した。前日に高市早苗首相(自民総裁)と国民民主党の玉木雄一郎代表が合意した「年収の壁」の引き上げを盛り込むなど、物価高対策や強い経済の実現に重きを置いた。
「責任ある積極財政」を掲げる高市政権の姿勢が鮮明である。加えて政権運営の安定化のため野党の意向を反映させたことは、歳出が膨らんだ7年度補正予算と同じ構図だろう。
物価高で暮らしが圧迫される中、税負担軽減に期待する国民は多い。これに応えて課税を適正化することは重要だが、減税に伴う政策効果や財源などを吟味するのもまた政治の責任である。そのための議論を十分に尽くしたのかは疑問が残る。
物価高への対応重要だ
高市首相は玉木代表との合意後、記者団に対して「強い経済を構築するという観点から、所得を増やして消費マインドを改善し、事業収益が上がる好循環を実現するため最終的な判断を下した」と語った。
参院で少数与党の高市政権にとって、年度内の確実な予算案成立などへの布石となる国民民主との協力は重要な意義を持つ。ただし首相は同時に、言葉通りの強い経済を持続的に果たせるかも厳しく問われよう。

所得税の非課税枠である年収の壁を巡っては、全納税者が対象の基礎控除と給与所得者の給与所得控除を物価上昇に連動して4万円ずつ上積みする。2年間に限り控除を上乗せする特例もあり、160万円の年収の壁は178万円となる。
控除を最も多く受けられる所得層は、現行の年収200万円以下から665万円以下へと拡充する。納税者の8割が減税の恩恵を受け、減収規模は約6500億円となる計算だ。
中所得層まで含めたのは国民民主の要請に自民が応じたためだが、そこにどこまで妥当性があるのか。中所得層の手取り増が消費を活性化する上で重要だとしても、物価高への対応は本来、真に支えが必要な低所得層に手厚くするのが筋である。
財務省によると、壁の引き上げに伴う8年の減税額は年収400万円以下が1万円に満たないのに対し、年収500万円が2・7万円、600万円が3・6万円と、もっぱら中所得層の恩恵が際立つ。その論拠についてもっと明確にすべきだ。
自動車関連税制の見直しにもちぐはぐさがある。自動車の購入時に環境性能に応じて負担を求める地方税「環境性能割」は廃止する。2年間の停止の方向だったが、こちらも国民民主の主張を受けて廃止を決めた。

自動車は日本の基幹産業であり、米国の高関税措置の影響を緩和できるよう国内需要を喚起する狙いがある。だが、電気自動車やハイブリッド車などのエコカーに比べて燃費性能の劣る車への税負担をなくすことは脱炭素化の流れに逆行する。
安定財源の確保徹底を
ここ数年のガソリン価格高騰は、エコカーに対する消費者の関心を一段と高めた。本来ならば需要を一層喚起し、国内メーカーの競争力を高めるべきときだ。それなのにガソリン税の暫定税率廃止や環境性能割の廃止が相次ぐようでは、むしろガソリン消費を増やすことにならないか。それが強い経済実現を後押しするのか首をかしげる。
防衛力を抜本的に拡充するため実施を決めたのに、開始時期の決定を先送りしてきた所得税増税は、9年1月から始めることがようやく決まった。

東日本大震災の復興特別所得税を1%下げるため、当面の税負担は変わらない。厳しい安全保障環境に対応するためにも、平時において防衛費の安定財源を確保しておくことは極めて重要だ。
高校生年代(16~18歳)の子供を抱える世帯の扶養控除は維新の慎重論もあって現状維持である。児童手当の対象に高校生を含めたことに伴い縮小が検討されてきたが、これまでの税制改正でも実施が見送られた。なぜ維持するのかについて納得のいく説明をする必要がある。
大綱には過去最大規模の設備投資減税なども明記された。一方、ガソリン暫定税率廃止や高校教育の無償化の代替財源を確保するため、大企業の賃上げ促進税制廃止などで1・2兆円を捻出した。メリハリのある税制の見直しは不断に続けるべきだ。特に財源確保の取り組みは「責任ある積極財政」に不可欠だ。税制のみならず歳出も抜本的に見直さねばならない。
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2025年12月20日付産経新聞【主張】を転載しています
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