改定されたばかりの規定に合うようスーツを調整する尾形優也さん。ミリ単位で選手の体にサイズを合わせる=2025年11月1日、大倉山ジャンプ競技場(佐藤徳昭撮影)
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ミラノ・コルティナ冬季五輪開幕まで3カ月あまりに迫った昨年10月31日。札幌市の大倉山ジャンプ競技場では、2日後に行われるノルディックスキー・ジャンプの全日本選手権ラージヒルの公式練習が行われていた。滑走するスキーのすれた音と、積雪のない地面に乾いた着地音が山にこだまする。競技特有の心地よい環境音とは対照的に、傍らにある事務室内には夜遅くまでミシンの機械音が響き渡っていた。
「2025年は春と秋にジャンプのスーツのルール改定があった。よりチェックされる項目が増え、検査も厳格化された。対応するのは大変ですよ」。溜(た)め息まじりに話すのは、選手のスーツを手掛けるミズノの尾形優也さんだ。日本チームのスーツの調整を担い、大会前はその作業が深夜に及ぶこともあるという。
スーツはゆとりがあると揚力を増して飛距離が伸びるため、近年は選手の体にぴったりさせたものを着用するルールとなった。縫い目の位置や素材の厚さ、通気量など細かい規定が設けられた。調整役は、規定ギリギリのサイズに仕上げる技術力が求められる。

とはいえ、選手の体は日々変化しており、スーツを規定に合わせるのは容易でない。好成績が出てもスーツの規定違反で失格となるケースも珍しくない。それだけに、調整役は選手以上に緊張感と重責を背負う。
ただ、メジャーとは言いがたい競技のせいか、大会会場での作業環境は恵まれていない。トップ選手が集う全日本選手権でさえも、競技委員などが使う事務室の一角を借りて、尾形さんはミシンを持ち込み調整作業を行う。
そんな作業部屋にこの日、真新しい黄色のスーツをまとった選手が入ってきた。53歳の最年長ジャンパー、葛西紀明選手だ。スーツが規定に達しているかチェックすると、股下や太ももの部分で調整が必要だと判明した。その調整を、公式練習が始まるまでにしてほしいとの注文だ。時間はわずか30分。現場は一気に慌ただしくなった。

「股下が(規定より)1センチ足りていなかった。それを届かせる作業は大変なんです。作業量に対して時間があまりに少なくて、久しぶりにシビれました」。尾形さんは切羽詰まった状況を振り返り苦笑いした。
当の葛西選手は2日後の選手権で4位入賞。9度目の五輪出場へ可能性をつなげた。競技後、葛西選手は尾形さんと握手を交わし、笑顔で一言投げかけた。
「仕上がり最高!」
筆者:西村利也(産経新聞写真報道局)
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