鮮やかな化粧に華やかな衣装、独特の型や立ち回り―。無形文化財にも指定され、能と文楽に並ぶ日本を代表する伝統芸能、歌舞伎。その400年余りの歴史は、世代を超えて代々受け継がれ、江戸時代へと遡る。
近年では、人気漫画『ワンピース』や『ナルト』などを始め、2007年にクリプトン・フューチャー・メディアが発表したキャラクター、初音ミクとコラボレーションするなど、現代のエンターテインメントを取り入れると同時に芸術の垣根を幾度となく超えてきた。
そんな中、11月下旬、映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の公開を記念した一夜限りの歌舞伎演目「STAR WARS歌舞伎―煉之介光刃三本―」が都内で披露され、多くの反響を呼んだ。同演目は主にシリーズの直近の三部作からピックアップしたシーンを描いている。
日本を代表する歌舞伎俳優・市川海老蔵(41)を始めとしたこの作品は、上演同日にYouTubeでもライブ配信され、12月5日まで限定公開されたアーカイブは372,000回以上閲覧された。
父・十二代目市川団十郎との思い出の映画でもあり、また自身も映画のファンであると公言している海老蔵は、『Star Wars』を歌舞伎の演目へとリメイクするにあたり、「ルーカスフィルム」監修のもと脚本と振り付けを手がけたことに加え、原作の登場人物の名前を歌舞伎風にもじった魁煉之介(かい・れんのすけ)と皇海大陸琉空(すかいおおおか・るくう)を一人二役で演じきった。
悪役のカイロ・レンを主人公として構成されたこの作品は、登場人物の名前やセリフを歌舞伎の世界観を通して表現できるよう再構築され、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」でカイロ・レンが叔父のルーク・スカイウォーカーとの戦いを繰り広げた名シーンは、ライトセーバーを刀にすり替え、歌舞伎特有の型や立ち振る舞いによって舞台上で再現された。
歌舞伎の世界に置き換えられた演出が多々ある中で、シリーズのトレードマークでもあるオープニングロールはそのまま採用され、舞台上に映し出されるとまるで映画館にいるような錯覚を起こさせた。
演目の後半には海老蔵の長男・堀越勸玄くん(6)も魁煉之介の幼少期役で登場し、大人顔負けの演技力で観客を沸かせた。
伝統を重んじる保守的な人や、長年のスター・ウォーズファンの中には本作品に疑問を持つ者も存在するが、日本の演劇界に新風を吹き込んだと絶賛する人もいる。このような作品を通して日本の伝統芸能の更なる可能性と革新性を追求し続けることにより、今後の歌舞伎界を担う勸玄くんのような次世代の歌舞伎俳優にとどまらず、その後の未来の歌舞伎役者たちにより多くの道を切り開いていくに違いない。
映画ファンの間では、シリーズの制作に日本文化が大きく影響したことは広く知られている。映画の制作過程において黒澤明監督に多大なる影響を受けたジョージ・ルーカス監督は、1958年公開された黒澤監督の映画「隠し砦の三悪人」にインスピレーションを受け、シリーズ第一作目「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」が誕生したとされている。
また、2013年からシリーズの制作に監督として関わったJ・J・エイブラムスも日本の文化に大きく影響されたことを公言しており、その中でもカイロ・レンの「割れたマスク」は日本の伝統工芸である金継ぎから着想を得たものだという話も有名だ。
この文化の共有から伺えるのは、「STAR WARS歌舞伎―煉之介光刃三本―」という作品が、シリーズが完結編を迎えるにあたって原作を里帰りさせる役割を果たしたのかもしれない。
海老蔵は演目の冒頭の挨拶で現在の心境を以下のように振り返った。
「『スター・ウォーズ』は1977年に初めてできたそうでございます。私も実は1977年生まれでございまして、同い年でございます。その『スター・ウォーズ』が今年完結編を迎え、私は2020年に「市川團十郎白猿」を襲名するという何か深いご縁を感じる次第でございます。日本の文化に大きな影響を受けたと言われているジョージ・ルーカスさんが作り上げたこの『スター・ウォーズ』が42年の時を経て、再び海を渡り、日本の伝統文化でございます歌舞伎と融合するという画期的な企画でございますが、最後まで御見物のほどよろしくお願い申し上げます。」
筆者:田中紫