建物の骨組みなどに木材を使う「木造ビル」が広がりをみせている。耐震性や耐火技術の向上で採用しやすい環境が整いつつあり、鉄筋コンクリートや鉄骨が主流だった都市景観に変化が生まれている。
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福岡市博多区で建設中の木造5階建てビルの内部。強度を高める部材を採用し、比較的広い空間を確保する(一居真由子撮影)

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建物の骨組みなどに木材を使う「木造ビル」が地方にも広がりをみせている。店舗やオフィスなどが入るビルで採用するケースが増加。「モクビル」とも呼ばれるビルの木造化は、国内の木材利用を促進し、林業などを通じた地域活性化の鍵を握る。耐震性や耐火技術の向上で採用しやすい環境が整いつつあり、鉄筋コンクリートや鉄骨が主流だった都市景観に変化が生まれている。

50トンのCO2貯蔵

福岡市博多区で建設が進む木造5階建て「上川端ビル(仮称)」。店舗として使われる予定で、建物の内部には木の香りが漂い、訪れる人の気持ちを和らげる。

構造設計を手掛ける「エヌ・シー・エヌ」(東京)の工法を採用して建物の強度を高め、建築基準法の耐震基準を満たした上、店舗が求める空間を確保した。

設計・施工を担う大分市の「FDM」によると、鉄骨に比べ全体の重量が軽く、施工面でもメリットがあったという。同社の高倉潤社長は「今回のケースでは、鉄骨で建てる場合に比べコストの削減や工期短縮につながった。事業性を考える上で、木造は現実的な選択肢となってきた」と話す。建物自体が約50トンの二酸化炭素(CO2)を安定的に貯蔵する効果もある。

広島市でも昨年10月、JR広島駅近くに、5階建て木造ビル「神人クリニック」が完成した。同市の「下岸建設」が設計・施工し、国土交通省の耐火性能試験をクリアした「シェルター」(山形市)の木質耐火部材を採用した。

広島市に建設された木造5階建ての「神人クリニック」(ヴィブラフォト提供)

駅近くの大通りに面し、木材を強調した外観が景観にアクセントを与えている。シェルターは、同社の技術を使って建設した中高層木造ビルを「モクビル」として商標登録している。

技術進展も後押し

木造ビルを巡っては、森林資源の循環と脱炭素社会の実現を目指し、国や地方自治体が建設を推進している。平成22年には公共施設での木材利用を促す法律が施行され、令和3年に対象が民間建築物にまで広がった。

技術の進展も木造化を後押しする。2025年大阪・関西万博で注目された木造建築「大屋根リング」では「CLT(直交集成板)」と呼ばれる建材パネルが採用されたが、こうした木造建築を支える技術開発が進んでいるほか、木造建築に求められる耐火性能などの規制が緩和され、木造化の可能性が拡大。「非住宅」を木造で建てられる時代となった。

人口減少で住宅需要の減少が見込まれる中、ビルの木造化は、木材の利用量を大幅に増やし、CO2削減にも寄与する。植林して50年を超えた樹木はCO2の吸収力が低下するとされ、戦後植林された日本の樹木の多くが吸収力のピークを過ぎている。森林の循環を促すことが吸収量を増やし、建物自体がCO2を貯蔵する効果もある。

これまで木造ビルは東京などの都心部で、大手デベロッパーなどが建築を主導してきた。近年は技術の進展に加え、コスト面などで事業が成立するようになり、地方にも波及。福岡市の不動産賃貸業「三好不動産」(福岡市)は、同市内で昨年建設した3階建てのホテル兼賃貸住宅に木造を採用した。

このほか神戸市にも令和6年、産業ガス大手の岩谷産業の研修施設が、木造と鉄骨造のハイブリッドで完成。佐賀県や宮城県などでも、事務所などの建設に木造を採用する事例が出ている。

国内林業の一大拠点である九州では、木造ビルの普及に向けて産学が連携。九州経済連合会は事業者が取り入れやすい3階建てを「モク三ビル」と名付け、裾野の拡大を図っている。

供給網構築が課題

九州経済調査協会の河村奏瑛研究主査は「地域木材の活用により、林業振興や地元企業の活性化などで地域に好循環が生まれる。木造ビルが都心に増えれば、日本が古くから大事にしてきた木材や環境保護に、思いをはせてもらえる」と期待を寄せる。一方で、普及への課題として、材料の安定確保や加工拠点の整備、設計者の育成などを挙げ、「まとまった量を指定したタイミングで供給できるサプライチェーンが十分に整っていない。流通状況が分かることは施主の意思決定には大事だ」と指摘する。

大林組が未来の都市として構想した森林と共生する街「LOOP50」。植栽、伐採、活用が50年をかけて循環する巨大木造建築だ(大林組提供)

国内だけでなく世界的にも〝木造革命〟が起きており、オーストラリアのシドニーでは、木造と鉄骨のハイブリッド構造で地上39階建てのビルが建設中。大林組が建設に参画し、同社は木造で循環する都市を提案するなど森林との共生を推進する。北欧フィンランドのヘルシンキでは、開発地の街区全体を木造・木質化するプロジェクトが進んでいる。

筆者:一居真由子(産経新聞)

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