トランプ米政権が公表した「国家安全保障戦略(NSS)」の書面 (相川直輝撮影)
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トランプ米政権が外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略(NSS)」を発表した。
中国発の有事を念頭に「軍事力の優位性を維持することで、台湾を巡る紛争を抑止することが優先事項」だと強調した。さらに「台湾海峡における一方的な現状変更を支持しない」と謳(うた)った。
今年1月からの第2次政権が台湾への姿勢を初めて明確に示した意義は大きい。日本と地域の平和と安定に資する内容となったことを歓迎する。
NSSは、中国が覇権を追求するインド太平洋地域に関し、「経済・地政学的な競争の舞台」と位置付け、米国の繁栄には「この地域での競争に勝利する必要がある」とした。世界の年間海上輸送量の約3分の1が南シナ海経由である現状を分析したものだ。
台湾の重要性について、半導体産業での優位に加え、第1列島線上に位置し、北東・東南アジアの2つの異なる戦域に接している点を挙げた。

中国への刺激を避けてきたトランプ大統領の台湾問題への姿勢を不安視する声があったが、今回のNSSは台湾有事へ米軍が関与する可能性を示した。これは対中抑止力を増し、平和を保つ方向で作用する。
九州から南西諸島、台湾、フィリピン、南シナ海へ及ぶのが第1列島線だ。NSSは「第1列島線のどこでも侵略を阻止できる軍を育成する」とした。ただし「米軍単独では不可能」であるとし、日本や韓国、台湾、オーストラリアといった同盟国やパートナーが侵略を抑止する新たな能力を獲得するため、防衛費を増やすよう促した。
米国は世界最大の国内総生産(GDP)と軍を有するが相対的国力は低下している。日本を取り巻く安保環境はますます厳しい。NSSの問題提起は妥当で、防衛費増を含む日本の対中抑止力向上の追求は急務だ。
高市早苗政権も厳しい安保環境や、平和を保つための防衛費増額の必要性について、国民に積極的に説いてほしい。
NSSがロシアを「戦略的安定性を再び確立する」相手としたのは残念だ。ウクライナ侵略を不問に付せば東アジアで似た危機を招きかねない。北朝鮮に言及しなかった点も疑問だ。核・ミサイル戦力保有を認めない方針を記すべきだった。
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2025年12月9日付産経新聞【主張】を転載しています
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