
スイス・ジュネーブで開かれたWHOの総会でスピーチするテドロス事務局長(共同)
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新型コロナウイルス禍の教訓を踏まえ、感染症の世界的大流行への備えや対策を強化する内容だ。ワクチン製造などに関する技術や知識の途上国への移転促進、病原体情報の迅速な共有などが盛り込まれた。
成立を歓迎したい。一方で総会への台湾のオブザーバー参加が今回も中国の妨害で認められなかったことは問題だ。ウイルスにとって国境は関係ない。日本や英仏独など8カ国は共同で台湾排除は「全く正当化されない」とする報道文を発表したが、参加は実現しなかった。

中国外務省は「(台湾との)意思疎通は円滑なもので、『国際防疫システムの穴』とは全くの政治的噓である」としたが、政治的噓をついているのは中国のほうだ。空白域をつくり平然としているのは許されない。
WHOの脱退方針を表明している米国は総会を欠席した。ケネディ米厚生長官は総会にビデオメッセージを寄せ、「WHOは中国の政治的圧力に屈しただけでなく、透明性や公正な統治を特徴とする組織の維持にも失敗した」と非難した。各国に脱退の検討を呼びかけた。

ケネディ氏の中国とWHOへの認識にはもっともな面がある。新型コロナ発生時、中国の習近平政権は迅速な情報開示を怠り、ウイルスが世界に拡散した。だが、テドロス事務局長は「中国が迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する」と絶賛し中国寄りの言動をとった。緊急事態宣言も遅れた。
主要なワクチン製造国の米国が脱退すれば、巨大な空白域が生まれる。分担金拠出国の1位は米国から中国になり、中国の影響力は増す。その場合、WHOから透明性や公正な統治がますます失われる。それは世界にとっても米国にとっても好ましくない。米国は脱退せず、国際社会の一員として責任ある行動を取るべきだ。
日米欧などは、2027年の次期事務局長選をにらみ、連携してWHOを改革していかねばならない。中国の劉国中副首相は総会に出席した際、テドロス氏と会談し、「WHOとともに人類衛生・健康共同体の構築を推し進めたい」と述べた。中国主導のWHOでは世界の人々の健康は守れない。
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2025年5月23日杖産経新聞【主張】を転載しています
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