
観光客に人気の那須温泉郷。那須町では来秋の宿泊税導入に向け準備が進む=栃木県那須町(那須町観光協会提供)
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年間約500万人が訪れる観光地で、皇室の御用邸があるロイヤルリゾートとしても知られる栃木県那須町で宿泊客に課税する「宿泊税」の来秋の導入に向けて準備が進められている。観光振興のための安定的な財源確保が狙い。同町は町議会6月定例会に宿泊税条例案を提案する。導入されれば県内自治体で初めてとなる。
6段階の定額制
同町では2月に町議会全員協議会で宿泊税の導入案について説明。来年10月の徴収開始を目指す方針を明らかにした。
同町が示した宿泊税の制度概要(案)によると、税額は1泊の宿泊料(食事代、消費税、入湯税などを除く)で6段階に設定し、宿泊料1万円未満で100円▽1~2万円未満で300円▽2~3万円未満で500円▽3~5万円未満で800円▽5~10万円未満で1500円▽10万円以上で3千円。対象は町内のホテル、旅館、民宿、ペンションなどで、分かりやすさを重視し、定額制にする。12歳未満や大学を除く学校の修学旅行の児童生徒や学生、引率者などは免除する。
宿泊税の使途については観光地のインフラや受け入れ環境の整備などを挙げている。具体的には道路や遊歩道の整備や2次交通の充実、環境保全の対策などに充てる。また、宿泊税の徴収義務を担う宿泊事業者への奨励金のほか、導入に伴うレジシステムなどの改修や構築などの費用に対する補助金も設ける。

外国人宿泊客数4倍強
これまで宿泊税をめぐっては昨年8月、同町観光協会が同町に導入に関する要望書を提出。これを受け、同町では庁内にプロジェクトチームを設置し、検討を進めてきた。
同観光協会が要望書を提出した背景には町の観光振興予算の先細りが懸念される中、持続可能な観光地づくりに向け安定的な財源を確保する狙いがある。同町の観光客数は新型コロナウイルス禍前の水準に戻りつつあり、令和5年は平成22年以来、13年ぶりに500万人台に回復。特に外国人宿泊客数は約1万5千人と前年の4倍強に上り、訪日客への対応などが急務となっている。
一方で那須町観光戦略会議が示した人口将来予測では、町の人口は令和12年までに約4千人減少(現在約2万4千人)。定住人口1人当たりの年間消費額を130万円に設定すると、人口減少により約52億円の経済損失となり「町の経済維持が困難」との予測もある。
年間約3億円の見込み
運営費の多くを町の補助金で賄っている同観光協会は「このままでは今後協会自体の運営も難しくなる」と危機感を募らせ、新たな財源として宿泊税に着目。同町に導入を促そうと要望書を提出した。
同町ではパブリックコメントを実施。町議会6月定例会に宿泊税条例案を提案し、可決されれば、総務大臣との協議など必要な手続きを進め、来年10月から徴収開始を目指す。
年間約3億円を見込んでおり、平山幸宏町長は「行政と事業者が一体となり、宿泊税を納めていただいた方にそれ以上のサービスを提供し、持続可能で世界に通用する観光地を目指したい」と話した。
筆者:伊沢利幸(産経新聞)
■宿泊税 ホテルや旅館の宿泊客に課税される法定外目的税。自治体が条例を定めることで独自に課税できる。主に地域の観光振興を図るための財源として利用される。現在、東京都や大阪府、京都市、金沢市などが導入している。
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