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奈良市の奈良公園周辺に生息する国の天然記念物「奈良のシカ」に、何者かが暴力を振るう動画が交流サイト(SNS)に投稿され、非難が集まっている。現地では外国人観光客の急増に伴い、不用意に触ったりしてトラブルに発展するケースも相次いでおり、奈良県警は7月25日、シカ保護とマナー周知のための緊急パトロールに乗り出した。
「奈良のシカは国の天然記念物です。傷つけた場合、法律で罰せられることがあります」
この日の奈良公園。行き交う大勢の観光客に拡声器を手にした奈良県警の「DJポリス」が日本語、英語、中国語の3カ国語でこう呼びかけた。
県警は保護団体「奈良の鹿愛護会」のメンバーらと周辺のパトロールを実施。シカへの暴力に目を光らせるとともに啓発のチラシも配り、観光客に理解を求めた。
発端は、SNS上に投稿された加害動画だ。奈良公園近くの路上で、通行人がシカを複数回蹴りあげたり、顔をはたいたりする様子が収められていた。これとは別の人物がシカにまたがる動画も投稿され、県警には24日までに一連の動画を問題視して「蹴っている人を逮捕して」「シカを守ってください」などと、30件以上の相談が寄せられたという。
「シカは野生動物」 不用意接触は控えて
国の天然記念物である奈良のシカを傷つければ文化財保護法違反にあたる。令和3年には、20代の男がおののようなものでシカの頭をたたき、死なせたとして同法違反罪で有罪判決を受けた。男は「シカが車に体当たりしてきて腹が立った」などと供述した。
今回の緊急パトロールにはシカの保護のみならず観光客の安全確保という側面もある。シカに不用意に触った結果、蹴られたりかみつかれたりする事故が後を絶たないからだ。県によると、シカが絡む人身事故は平成30年度に217件、令和元年度に192件あり、新型コロナウイルス禍を挟んで同5年度も105件に上った。いずれの年も外国人観光客の被害が日本人を上回る。
県は、おやつとなる「鹿せんべい」を与える際はじらさない▽シカを追いかけない▽子供が一人でシカに近づかない-とポイントを挙げて注意喚起をしているが、奈良公園では依然として不用意にシカに触る観光客の姿が目につく。
ある韓国人女性(29)は「みんなが触っているから触らないほうがいいとは思わなかった」と語り、ドイツから来た女性(37)も「シカは人懐っこく、もっと触りたい」と、トラブルのリスクを認識していない様子だった。
県奈良公園室は「奈良公園のシカは野生動物であり、安全に注意する必要があるということを外国人観光客を含めて広げていかなければ」と話していた。
筆者:秋山紀浩(産経新聞)