政府は6月15日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の全体像を紹介する「産業遺産情報センター」を一般公開した。日本を経済大国に押し上げる基礎となった19世紀半ば以降の重工業発展の軌跡を写真や映像で解説する。先の大戦中の朝鮮半島出身者の暮らしぶりについての証言も展示し、韓国側が端島(はしま)炭坑(長崎市、通称・軍艦島)を「地獄島」と表現し、朝鮮人徴用工が虐待されたとする主張とは異なる当時の実態を伝える。
展示は総務省第2庁舎別館内(東京都新宿区)に常設し、メイン展示は(1)(発展の初期となる)揺籃(ようらん)の時代(2)造船(3)製鉄・製鋼(4)石炭産業(5)産業国家へ-の5つで構成。洋式船機材の修理技術も持たない日本が、半世紀で長崎に大型船の築造施設を建設する過程など産業国家へと急成長する過程を写真や専門家インタビューなどで紹介する。世界遺産登録の経緯をまとめた映像も放映する。
産業革命遺産をめぐっては、平成27年7月の世界文化遺産登録を前に、韓国側が軍艦島などで「(朝鮮半島出身者に対し)非人道的な強制労働が行われた」(朴槿恵(パク・クネ)大統領・当時)と反発。これに対し、日本政府は「(戦時中)意思に反して連れてこられ、厳しい環境で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」と指摘する一方、「違法な強制労働があったことを認めるものではない」と説明。「(日本人を含む)犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を盛り込む」として同センター設置を表明した。
展示はこうした経緯を踏まえ、徴用の根拠として朝鮮半島出身者にも適用される国民徴用令(昭和14年制定)や、朝鮮人労働者が戦後に日本から引き揚げる記録も公開した。また、同センターを運営する
一般財団法人「産業遺産国民会議」のメンバーが4年以上にわたり、70人近い軍艦島や三池炭鉱(福岡)の元住民らに聞き取ったが、朝鮮半島出身者への虐待を示す痕跡は発見できなかったとしている。
昭和22年に端島に移住し、同センターでガイドを務める中村陽一氏(82)は韓国側の主張について「朝鮮半島出身者も日本人も坑内に命をかけて入った。朝鮮半島出身者を虐待したとは誰に聞いても見たことないと話している。事実と違うことを言われても困る」と語った。
情報センターは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年3月末の開所式後は閉館していた。見学には予約が必要。問い合わせは産業遺産情報センター03-6457-3655(平日午前10時~午後5時)。
筆者:奥原慎平(産経新聞)