安倍晋三首相が12月24日に中国・成都で韓国の文在寅大統領と会談した際、「福島第1原発から排出されている水に含まれる放射性物質の量は韓国の原発の排水の100分の1以下だ」と指摘していたことが12月28日、分かった。東京電力福島第1原発事故後、韓国が福島県の水産物をはじめとする日本産食品の輸入を禁止していることを念頭に、科学的な議論を行うよう求めた形だ。文氏は反論しなかったという。日韓外交筋が明らかにした。
福島第1原発では現在、原子炉建屋に流れ込む地下水を減らすために設置したサブドレン(建屋近くの井戸)から地下水をくみ上げ、浄化後、基準値を下回ることを確認して海洋に排出している。
政府の小委員会の資料などによると、2016年のサブドレンからのトリチウム排出量は年間約1300億ベクレル。一方で韓国の主要原発である月城原発が16年に液体放出したトリチウムの量は約17兆ベクレルで、約130倍だった。首相が会談で念頭に置いたのは、このデータ比較だったとみられる。
福島第1原発の周辺海域や外洋の状況をめぐっては、国際原子力機関(IAEA)が「放射性物質濃度は上昇しておらず、世界保健機関(WHO)の飲料水ガイドラインの範囲内にある」と評価している。
こうした科学的根拠も踏まえ、今年はバーレーン、コンゴ民主共和国、ブルネイが日本産食品の輸入規制措置を撤廃、欧州連合(EU)も検査証明書の対象地域・品目を縮小し、国際的に規制の撤廃・緩和の流れが強まっている。だが、韓国は輸入規制の緩和に動くどころか、逆に一部で放射性物質の検査を強化した。
日韓関係筋によると、首相は文氏に、IAEAの評価についても説明し、「科学的に冷静な議論が行われるべきだ」と訴えた。首相としては、国際潮流に逆行する形でかたくなに輸入規制を続ける韓国に対し、科学的根拠に基づく対応を求めるために、あえて日韓のデータ比較を持ち出したとみられる。これに対し、文氏からは反論も含めて反応はなかった。