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朝日新聞は9月13日のウェブ記事で、「多文化共生、ヒントは 群馬県大泉町長・村山俊明さん」という記事を掲載した。村山氏はここで、「この町の姿は将来の日本の姿だ」と述べている。
住民の2割を外国人が占める大泉町。同氏によると、人権や多様性を重視し人権擁護条例などを制定、7カ国語で行政対応するなど外国人に積極的に手を差し伸べているが、多言語対応には限界があるため将来的に英語を町の共通語にする方針とのこと。外国人の高齢化が進み生活保護受給者や要介護者が増えているので、外国人への情報提供に努めているそうだ。
朝日は大泉町の現状を肯定的に評価し、多文化共生のヒントを見いだせという。しかしここには深刻な問題がある。
第1に、増える外国人に対応するために英語を日本の共通語にすれば、日本語しかできない日本人はあらゆる場で著しく不利益を被る可能性がある。社会でも教育現場でも日本語は英語にとってかわられることになる。日本から日本語が失われれば、もはや日本ではないと言っていい。
第2に、年金を支払わず高齢化した外国人を支えるための生活保護支給が常態化すれば、外国人増加に伴い財政は逼迫(ひっぱく)し、日本人の福祉が等閑に付され機能不全に陥る可能性がある。
大泉町の生活保護問題については、産経新聞が平成30年に「生活保護受給外国人の多い群馬県大泉町を歩く 日本語の壁 再就職できず」という記事(ウェブ版)を掲載している。住民の約18%、生活保護受給者の23%が外国人という大泉町の現状について、「生活保護費の膨張は町の財政を圧迫しないが、国や県の負担を増す」と記されている。
大泉町はバブル期の人手不足を補うために多くの外国人を受け入れたが、彼らは景気悪化で解雇されても日本語ができないため新たな仕事につけないケースも多いとみられる、ともある。大泉町単体で考えれば、仕事のない外国人には生活保護を支給すればいい、それは町ではなく国や県の負担になる、われわれはこのまま人権と多様性を重視した町づくりを推進すればいい、という論理も成立しうるが、こうした市町村が全国に乱立すれば日本の国家財政は早晩破綻する。
このように自分本位で他責的かつ偽善的な行政のあり方が、日本の将来の姿であっていいはずがない。外国人にとって住みやすく日本人にとって住みにくい、そんな社会をあたかも日本の未来の理想の如(ごと)く提示する政治家やメディアにだまされてはならない。
筆者:飯山陽(いいやま・あかり)
昭和51年、東京都生まれ。イスラム思想研究者。上智大文学部卒、東大大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。麗澤大学客員教授。著書に『中東問題再考』など。
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2023年10月15日付産経新聞【新聞に喝!】を転載しています