U.S. President Biden welcomes Japanese Prime Minister Kishida at the White House in Washington

US President Joe Biden shakes hands with Japan's Prime Minister Fumio Kishida during a bilateral meeting in the Oval Office at the White House in Washington, US on January 13, 2023. ( © Reuters by Jonathan Ernst)

~~

イギリスの著名な雑誌「エコノミスト」は2018年3月に冒頭の記事で「自由世界は中国を世界貿易機関(WTO)の加盟国にして、グローバルな自由世界経済に併合させるという試みにまちがった賭けをした」と宣言した。それ以後の5年間、エコノミスト誌はまったく正しかったことを証明した。中国政府のすべての主要なハイテク産業の国家計画「中国製造2025」の政策の強調は「軍民融合」の政策とも結びつけられている。

 

このことは現実的には中国市場は長期的に外国からの輸入製品には開放されない展望を意味する。この文脈のなかでアメリカ企業のアップル社の状況を眺めることは興味深い。いまアップル社が販売している製品のすべてが中国の国内で製造されているのだ。もちろん名目上はアップルはカリフォルニア州で法人登録されたアメリカの企業である。

 

アメリカ国内ではアップル社の最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏は首都ワシントンで大きな影響力を持ち、ホワイトハウス、連邦議会、そして事実上、アメリカ全体のすべての最高指導層に即時に接触できるほどである。クック氏と彼の会社は大統領や上院議員、その他の議員らの選挙キャンペーンに巨額の寄付をすることができるのだ。もしアメリカ政府がアップル社の嫌う行動をとれば、アップル社はアメリカ政府に対して訴訟を起こすことも、その他の政治圧力をかけることもできる。その結果、アメリカ政府の好ましくない行動を防ぐことができるのだ。

 

しかし前記のように、アップル社が全世界で販売する製品のすべてが中国で製造されている。だがクック氏は中国では特別な影響力は有していない。習近平国家主席に選挙資金を寄付することはできないのだ。中国政府の行動が気に入らないからといって、中国の裁判所に訴えを起こして勝つという見通しもない。実際にはクック氏は北京政府に人質にとられたような状態なのだ。実際に北京政府はときどきはクック氏に対してアメリカでの中国大使のような役割を指示することもある。中国共産党政権はクック氏にホワイトハウスや連邦議会、その他のアメリカ側の強大な組織に対して中国が求める行動を取らせることを要請させるのだ。だから事実上、アップル社は真のアメリカ企業ではない。アメリカ企業というよりはむしろ中国側企業としての要素が強いのだ。

 

china technology TSMC
台湾積体電路製造(TSMC)

 

しかしアップル社はこんな立場にある唯一の企業ではない。バイデン大統領は最近、一定種類の高度用途の半導体と半導体部品の中国への輸出を規制した。この措置はこの特定領域ではアメリカの技術が多数を占めていたから可能だった。だがアメリカの技術がその領域を完全に独占しているわけではない。

 

台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニファクチュアリング=台湾積体電路製造股份有限公司)や韓国のSAMSUNG(サムスン電子)も今日、半導体製造では主導的な立場をも占めている。アメリカのインテル社はいくらか後進の立場にある。オランダのASML(エイエスエムエル社)も枢要な部品を製造する。同社はそのためにアメリカを起源とする技術を多々、使うが、すべてアメリカの技術というわけではない。日本の東京エレクトロン社も同様である。

 

最近のメディアの報道によると、ASMLと東京エレクトロンは最近のアメリカ政府の中国への輸出規制策に満足しておらず、アメリカ政府の要請に反して、中国側に半導体製造部品を売りたい意向だという。

 

一面からみれば、この意向は理解できる動きだといえる。考えてみれば、なぜこれら外国の企業が他国の大統領からの命令に従い、自社の売れ行きを短期的に減らすことになる措置をとらねばならないのか。

 

これら各国企業はいったいなぜ、アメリカ大統領の動向に注意しなければならないのか。いや自国の首相の同じような意向に関心を向ければ、短期の利益を巨額に失うことにもなりかねない。この問いへの答えはまさに「短期の」という点にある。この種の短期の利益は確実に長期の損失に通じるのだ。中国側がオランダや日本の企業から買った部品や機材を模倣しないと信じる人間はいるのだろうか。中国共産党政権はそもそもこの種の製品や部品を中国の国内で製造するのだと宣言しているのに、その宣言を突然、変えて、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンの長期的な顧客となって、両社からの購入を無期限に続けるようになると、信じる人はいるのだろうか。どの国のビジネスリーダーでもそんなことを信じるほど愚かな人はいないだろう。

 

そのうえに、中国は一度、外国製の優れた製品を模倣すると、グローバル市場でその模倣品をどっと売り出すのが過去の実例である。しかもその模倣製品の価格は東京エレクトロンやASMLの元の製品よりずっと安くなるのだ。中国の国有企業は当面の利益をあげる必要はないし、いわゆる民間とされる中国企業も政府からの補助金を得ているために目前の利益をあげずに、たとえ赤字でも外国企業が競争できないほどの廉価で製品を売ることができるのだ。

 

china
(© Starbucks)

 

もちろんすべての外国企業が中国から撤退することは必要もないし、好ましくもない。たとえば、もしスターバックスが大量のコーヒーを中国国内で売り続けることになっても、あまり問題ではない。スターバックスは売りたいだけ、売ればよい。しかし中国は次世紀の主要なハイテク製品の生産の世界の王者となるという意図をすでに明確に宣言したのである。

 

自由民主主義世界が中国共産党にその民主主義的で、開放され、自由な経済と貿易の諸国の首を絞めるためのロープを売るということは、あまりに危険であり、愚かである。私はその危険や無知について日本の米中関係研究者の古森義久氏とともに「米中開戦前夜・習近平帝国への絶縁状」(ビジネス社刊)という共著のなかで詳細に説明した。

 

短期的なドルや円の利益のために、中国の制覇を許して、私たちの言論の自由や法の支配を失うというのでは、これほどひどい貿易はないということになる。この種の最悪の事態を避けるためにこそ、日本の岸田文雄首相とアメリカのジョセフ・バイデン大統領がワシントンでの今回の首脳会談にのぞんだのだ、といえよう。

 

筆者:クライド・プレストウイッツ

 

 

この記事の英文記事を読む

 

 

 

コメントを残す