~~
6月19日、ロシアのプーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と首脳会談を行った。両氏は「どちらか一方が、武力侵攻を受け、戦争状態になった場合、遅滞なく、保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」という規定を含む「包括的戦略パートナーシップに関する条約」を締結した。
この規定に従って、北朝鮮軍がウクライナ戦争に参戦するのではないかという予測が出ている。実はすでに派兵が行われ、それがあったのでプーチン訪朝が実現したという。私が最近入手した情報によると、5月に約1000人の工兵部隊がロシアに派遣され、今後、それが1万人に増やされる計画で、現在、体格の良い兵士を選別する作業が進んでいる。
派兵を求め続けたロシア
プーチン大統領は訪朝を1月に約束していたが、なかなか実現しなかった。3月に通算5回目の大統領当選を決めた後、5月に訪中し北朝鮮の近くのハルビンまで来たが、平壌には寄らなかった。北朝鮮側はその際に訪朝を強く働きかけたが、中国の反対もあり実現しなかったと聞く。
最近の朝ロ関係では大きな問題が生まれていた。ロシアが北朝鮮の提供した兵器が古い不良品ばかりだったことに怒っていたからだ。
北朝鮮は昨年後半から数百万発の砲弾と短距離弾道ミサイルをロシアに提供して、ウクライナ戦争を戦うロシア軍を支援した。しかし、砲弾は不発率が5割を超え、砲身の中で爆発してロシア兵が負傷することもあった。
北朝鮮は2010年以前に生産した古い兵器をロシアに提供した。同年に北朝鮮はコンピューター制御で動かすCNC旋盤を導入し、その後、兵器の質は良くなった。それ以前の砲弾、弾薬はゴミのようなもので、それをロシアに提供した。北朝鮮としては兵器庫が空になれば有事に困るので、古い兵器を出した。
ロシア軍は北朝鮮製兵器への不満を強め、その古い兵器を処分した。ロシアのシェイグ国防相の解任理由の一つが、昨年7月の訪朝で不良品の兵器を買い付けてきたことだったという。北朝鮮はシェイグ氏に「喜び組」まで付けて接待していた。
ロシアはシェイグ氏の訪朝以降、北朝鮮軍の派兵を求め続けていた。シェイグ氏が持参したプーチン大統領のメッセージで朝鮮戦争にソ連空軍パイロットが参戦したことを認めたのも、今度は北朝鮮が派兵せよという圧力だった。
見返りの原潜技術は未取得
昨年、北朝鮮は特殊部隊の派兵を検討したが、ひそかに隊員の意識調査をしたところ、戦闘中に逃亡する者が多数出る恐れがあると分かって中止したという。今回、工兵を出すことにしたのは、逃亡しにくい部隊だという理由もあるようだ。
金正恩委員長は、ウクライナ戦争が停戦する前に原子力潜水艦技術とステレス戦闘機をロシアからもらいたいと昨年から繰り返し交渉してきた。ロシアは提供された砲弾の値段と釣り合わないと拒否し続けた。今回、派兵というカードを切った金正恩氏に対してプーチン氏は原潜技術とステレス戦闘機を出すと約束はしなかったという。
筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授)
◇
国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1157回(2024年6月24日)を転載しています