日本発の「曲がる太陽電池」の実用化への開発が進む。国際競争の激しい再生エネルギー市場で日本に勝機はあるか。
Solar-1 (Perovskite)

A perovskite solar cell sample. May 18. (©JAPAN Forward by Hidemitsu Kaito)

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日本発の次世代太陽電池

 

「ペロブスカイト」と呼ばれる「曲がる太陽電池」の研究・開発が進んでいる。日本の研究者が開発した薄くて軽いフィルム状の太陽電池で、従来のシリコン系のものとは違い、曲げたりいろいろな場所に設置できる利点がある。変換効率も向上し、生産過程での二酸化炭素の発生も少ない環境性も備えた優れたデバイスだ。原材料となる鉛とヨウ素は日本国内で賄える点からも、経済安全保障上でも重要といえる。

 

ペロブスカイトというのは原材料の鉱物の名前に由来する。富士フイルムの研究者だった宮坂力氏が桐蔭横浜大学に移り、その研究室が2009年に発表した論文がもとになっている。研究当初より電池の変換効率が向上し、現在は約26%とシリコン系の太陽電池と同程度になっている。

 

宮坂力・桐蔭横浜大特任教授(伊藤壽一郎撮影)

 

太陽電池をめぐる日本の苦い経験

 

太陽電池は、1950年代に米国でシリコン系の製品が最初とされ、現在もシリコン系製品が市場の9割強を占める。しかも、そのほとんどは中国製だ。再生エネルギーが注目を浴びた2000年はじめでは、シャープ、京セラ、三洋電機など日本企業が太陽電池産業では主導権を握っていたが、「大量生産」「価格競争」が進み、一気に中国企業にその座を奪還されてしまった。中国が国策で太陽電池産業を支援し、その原料シリコンは中国に依存している。

 

中国製のシリコン系太陽電池パネル(2024年2月28日、海藤秀満撮影)

 

ペロブスカイトの転機

 

ペロブスカイト太陽電池は物理と化学の両面を持つとされる。海外でもペロブスカイトは研究されていたが、宮坂教授の下で学んだ英オックスフォード大学院生が10%を超える変換効率を2012年に発表したことで風向きが変わり、世界中で研究開発が一気に進むことになる。皮肉なことに、宮坂教授の中国人の教え子が本国に帰ってペロブスカイトの事業を起こしライバルにもなっている。

 

 

これからの課題

 

ペロブスカイトの実用化に向けた現在の課題は、「耐久性(寿命)」と「コスト」だ。シリコン系太陽電池の約20年の寿命に対してどうか。原材料コストはシリコン系の約半分とされるが、量産化に向けては更なるコスト低減が求められる。

 

土地が狭い日本では、シリコン系の太陽電池パネルを設置できる場所に限りがあり、薄くて軽いペロブスカイト太陽電池なら、シリコン系と違い柱や壁面などへの設置が期待できる。シリコン系パネルは設置後のメンテナンスも課題となっている。

 

東京都は積水化学工業製のペロブスカイト太陽電池を東京国際クルーズターミナルに新たに設置して、国内最大規模となる港湾施設での実装実験を始めた。フィルム型のペロブスカイトの事業化は積水化学工業が2025年を目標に掲げている。パナソニックホールディングスは2028年までにガラス建材一体型の製品化の研究開発を進めている。鉄道会社や不動産会社、自治体が共同で耐久性と発電効率の実装実験に取り組んでいる。大学発のベンチャー企業も研究開発に参加している。中央省庁と民間企業、自治体約150団体が普及のための協議会を組織する予定だ。

 

東京都庁・展望台で実装実験中のペロブスカイト太陽電池搭載センサー(2024年5月18日、海藤秀満撮影)

 

ペロブスカイトは化学合成した人工物で、日本の化学メーカーが得意とする技術だ。とはいえ、発端となった2009年の論文以降は海外での研究開発に勢いがあり、日本は遅れをとっている。

 

ペロブスカイトは「日本発の先端技術」として日本経済の未来につながる技術になり得るか。「シリコン系太陽電池の苦い経験」の二の舞いにならないように脇を絞めて研究開発、普及に取り組む必要がある。

 

筆者:海藤秀満(JAPAN Forwardマネージャー)

 

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