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事実上、菅義偉首相の次の首相を決める自民党総裁選は、男女2人ずつ計4候補の争いとなった。日本の針路と浮沈を左右する重大な選挙だけに、熱い論戦を期待したい。ただ、のっけから首をかしげる言葉も聞いた。告示日に特定候補に焦点を当てたくはないが、見逃せない。
「昭和の時代の概念だ」。河野太郎ワクチン担当相は17日、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力について、時代遅れだとの見解を示した。「議論すべきなのは日米同盟でいかに抑止力を高めていくかだ」とも語ったが、どういう意味か。
政府は昨年6月、防衛相だった河野氏主導で地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画を断念した。これを受け当時の安倍晋三首相は周囲に述べた。「打撃力(敵基地攻撃能力)について正面から議論する」。迎撃システムが導入できないのならば、代替策として敵基地攻撃能力保有が必要だとの考えである。
安倍氏は今年4月の憲法シンポジウムで、「打撃力を抑止力として考えるべきだ」とも指摘した。他国に日本を攻めることを思いとどまらせることが抑止力だから、当然だろう。迎撃力も打撃力も打ち消した河野氏は、どんな抑止力を想定しているのか解せない。
折しも北朝鮮が15日に発射した変則軌道で飛行する新型弾道ミサイルに関し、日経新聞は17日朝刊に日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長のこんなコメントを載せていた。「相手のミサイル発射を阻害するための敵基地攻撃能力も考えないといけない」
そもそも河野氏は昨年7月の国会では、敵基地攻撃能力について「あらゆる選択肢を議論するのは当然だ」と答弁していた。はて1年前は昭和だったのか。
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2021年9月18日付産経新聞【産経抄】を転載しています