世界で約4千万人が感染し、100万人超の尊い命を奪った新型コロナウイルスは、なかなか収束する気配を見せない。パリでは再び夜間の外出が原則禁止となった。
コロナとインフルエンザの同時流行も懸念される季節を迎え、高齢者や基礎疾患のある方はぜひともインフルエンザの予防接種を受けてほしい。
新政権発足後まもない9月23日、私は菅義偉首相と会談し、1年延期された来夏の東京五輪・パラリンピック開催など国と都の連携を確認した。新政権は行政のデジタル化推進を目玉政策の1つに掲げているが、サービスの「質」が問われる今日にこうした改革は欠かせない。強力なリーダーシップで急速に進むことを期待する。
都は昨年、宮坂学・元ヤフー社長を副知事に迎え、目下、「引っ越し」作業の真っ最中だ。新宿のシンボルになった都庁は1991(平成3)年に丸の内から引っ越したが、令和時代の「移転先」はデジタル空間だ。「バーチャル都庁」をつくり、徹底したデジタル化で都民が質の高い行政サービスを受けられるようにするためである。
10月8日に閉会した都議会では、行政手続きをデジタル化する「デジタルファースト条例」が成立し、手続きのデジタル化・ワンストップ化を基本原則とした。変革をもたらすデジタルトランスフォーメーション(DX)が進めば、それぞれの「質」は大きく向上するだろう。同9日に発表した東京版DXでは「はんこ(押印)レス」「キャッシュレス」「タッチレス」「ペーパーレス」「ファクスレス」という「5つのレス」を掲げ、スピード感をもって構造改革を推進していく。
わが国の成長エンジンである首都・東京という観点からは、もう1つ強力に進めなければならないことがある。それは「国際金融都市」としての役割だ。英シンクタンクZ/Yenグループなどが発表した9月の国際金融センター指数ランキングによれば、東京は4位だった。首位はニューヨーク、次いでロンドン、上海と続く。国際金融をめぐる環境は激しく変動しており、世界から魅力的に映らなければランク外になるのが熾烈(しれつ)な都市間競争の現実だ。韓国・ソウルは2015年9月に過去最高の6位に上昇したが、釜山と金融ハブを分散したこともあって、昨年3月には36位にまで急落した例もある。
国内総生産(GDP)が世界3位のわが国は、1900兆円近い個人金融資産や多様な産業集積に加え、安定した政治情勢や治安、ドル資金へのアクセスなどの強みもある。しかし、国際金融都市として選ばれるには、税制、生活、労働、教育、医療環境など総合力が不可欠だ。
都は昨年4月に官民連携のプロモーション組織「フィンシティ東京」を設立し、英金融街シティー・オブ・ロンドンとの連携や海外企業・人材の誘致などの取り組みを展開。今月7日には「国際金融都市構想」に関する有識者懇談会の準備会をスタートさせた。東京をアジア、そして世界の金融のハブとすることは日本全体の成長につながる。
英国の欧州連合(EU)離脱や香港情勢を考えると、日本が国際金融都市として世界の選択肢になり得るのは「今がラストチャンス」だ。
孫子の兵法にある「先に戦地に処(お)りて、敵を待つ者は佚(いっ)し、後れて戦地に処りて戦いに趨(おもむ)く者は労す」は、先を見据えた施策展開の重要性を教えてくれる。人材、情報、技術、資金を呼び込み、コロナショックをバネに大きく成長する首都づくりに取り組む。
来年は五輪・パラリンピック開催とともに、未来に希望を持つことのできる1年にしていきたい。
筆者:小池百合子
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2020年10月18日付産経新聞【女子の兵法】を転載しています