5月28日付産経新聞朝刊「正論」欄で、ジャーナリストの井上和彦氏が詳述している通り、新型コロナウイルスの感染拡大の最中にあって、目覚ましい活躍をしたのが災害派遣命令で支援活動に従事した自衛隊だった。
何しろ、のべ約4900人の自衛隊員が活動し、自衛隊中央病院は感染者128人を受け入れ治療を施したにもかかわらず、活動中に一人の感染者も出さなかったのである。
「特に、自衛隊中央病院の呼吸器科部長で医官の小寺力1陸佐が指揮する医療チームには感謝しております。小寺医官のプロ意識と親身な対応は決して忘れません。自衛隊中央病院で治療を受けることができたのは、幸運でした」
安全保障・防衛問題の専門紙『朝雲新聞』によると、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」内で感染し、自衛隊中央病院で治療を受けたドイツ人夫妻からは、湯浅悟郎陸幕長あてにこんな感謝の手紙も届いている。
やはり自衛隊は頼もしく誇らしいと感じていたが、これでも本来の力を十分発揮できたとはいえないようである。批評家の西村幸祐氏と福山隆・元陸将の対談集『「武漢ウイルス」後の新世界秩序』を読んでいたところ、福山氏の次の言葉が目についた。
「社会党と共産党は、今日の新型コロナウイルスに対処する自衛隊の能力を棄損(きそん)した責任があります。(中略)自衛隊の充実強化を長年にわたり阻害し続け、国民の安全を蔑(ないがし)ろにしてきたこれら左翼政党…」
福山氏は最近、陸自の1期先輩である圓藤春喜・元陸将補からこんなメールをもらったのだという。
「我々(われわれ)が陸幕の二佐で頑張っていた頃、社会党が『自衛隊が毒ガスや生物兵器対処を準備しているのはけしからん』と国会で追及し、特殊武器防護という教範を破棄させられた」
福山氏は「そのほかインテリジェンスに関するマニュアルも、共産党から追及されて、破棄しました」と語っているが、彼らは本当にろくなことをしない。国民の生命・財産を守る自衛隊をいたずらに敵視・危険視することで、その目的を果たすことの邪魔ばかりしてきたわけである。福山氏は指摘する。
「左翼勢力の妨害がなかったなら、今回の武漢ウイルス禍への対処はもっと適切にできていたと思う」
そこで、過去の国会議事録をみると、昭和43年3月の衆院予算委員会で、楢崎弥之助氏(当時は社会党、後に社民連)が、次のような質問をしていた。なお、ここに出てくるCBRとは毒ガスなどの化学兵器、細菌などの生物兵器と放射能兵器のことである。
「自衛隊はCBR戦争に生き残る訓練をしておる。CBRは、普通の弾頭と違って、広範囲に敵も味方も影響を、損害を受けるこれは兵器だ。各国はだから研究をしておるでしょう。しかし、日本の場合は、一体どういうことになるのか。自衛隊だけが核戦争に、あるいはCBR戦争に生き残る権利があるのか。国民はどうなる。国民は生き残る権利はないのか」
自衛隊がCBR兵器への対処を訓練することが、なぜ国民を見殺しにすることになるのか著しい論理の飛躍があるが、当時はそれが通用したのだろう。
今からみれば能天気な議論だが、この時代のくびきが、今もなお自衛隊の手足を縛っているとしたら到底笑えない。コロナ禍を契機に、憲法を含め、自衛隊の位置づけや活動内容を改めて問い直すべきだろう。
筆者:阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
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2020年5月29日付産経新聞【阿比留瑠比の極言御免】を転載しています