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毒を持って毒を制す がん治療の選択肢「ウイルス療法」

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ウイルスを使ってがん細胞を攻撃する国内初の「がんウイルス療法」の治療薬が6月11日、厚生労働省に正式承認された。遺伝子工学技術を用いてがん細胞だけで増えるウイルスを作製して投与し、正常細胞は傷つけずに、感染したがん細胞を次々に破壊していく治療法だ。さまざまな種類のがんをターゲットとした新薬開発が進んでおり、放射線治療や化学療法などに並ぶ、がん治療の新たな選択肢として注目が集まっている。

 

 

ウイルスとがん細胞の特性を利用

 

治療薬は、脳腫瘍の一種である悪性神経膠腫(こうしゅ)の治療に使われる「テセルパツレブ」。東京大医科学研究所の藤堂具紀(ともき)教授らが開発した。治験対象者が少数のため、今後7年間、有効性と安全性を確認するとの条件つき承認となった。ウイルス療法治療薬の実用化は国内初で、第一三共が製造販売する。

 

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ウイルスは人など宿主の細胞に感染すると、細胞内で自身のDNAなどの遺伝物質やタンパク質を合成し増殖していく。通常、細胞はウイルス感染すると体を守るために自滅するという防御機能を備えているが、がん細胞はその機能を失っている。このためウイルスに対する防御力が低いがん細胞は、ウイルスが増殖するのに適した環境になる。

 

ウイルスそのものが感染したがん細胞を殺しながら腫瘍内で増殖していくというウイルス療法は、ウイルスとがん細胞の持つ特性を利用した「毒を以(もっ)て毒を制す」治療法というわけだ。

 

 

がんが治癒する可能性

 

テセルパツレブは、2001年に開発された「G47Δ(デルタ)」と呼ばれるウイルスを使う。唇や周辺に小さな水ぶくれができる感染性の病気「口唇ヘルペス」の原因である「単純ヘルペスウイルス1型」の3つの遺伝子を改変し、働かなくした。

 

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改変により、ウイルスは正常細胞を傷つけず、がん細胞だけで増殖。がん細胞を死滅させたウイルスはさらに周囲に散らばって別のがん細胞に感染し、これを繰り返してがん細胞を次々に破壊する。さらに、ウイルスは一定期間増えた後、体の免疫機能によって排除される。この過程で、がん細胞を攻撃する免疫が活性化し、ウイルスを投与した部位から離れた場所にあるがん細胞に対する治療効果も期待できるという。

 

治験は、放射線や抗がん剤などによる標準治療後に再発したり腫瘍が残ったりした、脳腫瘍の中でも悪性度が高い膠芽腫(こうがしゅ)の患者を対象に実施。13人を対象にした解析では、1年後の生存率が92.3%と、一般的な標準治療の15%と比べて6倍程度高まった。19人でみた治療開始後生存期間は20.2カ月(中央値)だった。

 

初期の臨床試験に参加した末期の膠芽腫患者の中には、治療から11年を経た現在も生存しているケースが1例あるという。藤堂教授は「一度再発した脳腫瘍がその後長期間再発しないことは通常はあり得ない。だが、ウイルス療法で誘導された抗がん免疫がうまく働いた場合、がん細胞の最後の一つまで免疫が排除し、最終的にがんが治癒する可能性がある」と指摘する。

 

 

第3世代の治療法

 

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G47Δは、血液のがん以外の全てのがんに同じメカニズムで作用することから、チームは前立腺がんなどを対象に臨床試験を実施している。

 

ウイルス療法は1990年代初頭から世界中で研究開発が加速した。遺伝子工学技術の発展に伴い、ウイルスのゲノム(全遺伝情報)を人工的に設計できるようになったためだ。ヘルペスウイルスでは、遺伝子を1つだけ壊した第1世代から始まり、徐々に安全性と抗がん効果を高め、現在は第3世代のG47Δまで技術革新が進んでいる。

 

米国や欧州ですでに承認されている米製薬会社アムジェンが開発した悪性黒色腫の治療薬は2つの遺伝子を改変した第2世代だ。

 

G47Δは世界最先端の新薬を早期に実用化するために優先審査する厚労省の先駆け審査指定制度の対象となった。国内では他に、バイオベンチャーや製薬企業も悪性黒色腫や食道がんなどを対象にさまざまなウイルスを使った新薬を開発。少人数での臨床試験を実施している。

 

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ウイルス療法は「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害薬と併用すると、免疫ががんを認識できるようになることで、より大きな治療効果が得られると期待されている。藤堂教授は「ウイルス療法は、放射線治療や化学療法しかなかったがん治療の新たな選択肢だ。将来は、がんの種類に適した機能を持ったウイルスが登場し、いろいろな機能を持ったウイルスをまぜ合わせてウイルス療法を行う時代が到来するだろう」と話している。

 

筆者:有年由貴子(産経新聞)

 

 

2021年6月27日付産経新聞に掲載された記事を転載しています

 

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