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それでもアフガン撤収を支持

Hiroshi Yuasa

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米空軍の大型輸送機が、アフガニスタンの国際空港を離陸する映像ほど、米国人にとって屈辱的な情景はなかった。その心の痛みと負い目は、怒りとなってバイデン米政権の決定に向けられる。

 

中国外務省は会見で、その傷に塩を塗った。米メディアの記事を引用しつつ、新たな「サイゴンの瞬間」として描いた。国営新華社通信はその前日、やはりベトナム戦争のサイゴン陥落時の写真を引き合いに、「歴史は繰り返す」とツイートした。

 

狙いは、米国のカブール脱出をもって「台湾の将来の運命を示す前兆」と嘲笑し、やがて台湾を見捨てることになる、とのプロパガンダにあった。

 

だが、現実を直視する中国の戦略家たちは、全く違う方向を見ていたのではないか。イスラム原理主義勢力タリバンがカブールを制圧したのと同じころ、東アジアでは、米海兵隊の2万5千人が米海軍とともに、西太平洋の島々の奪還を想定した軍事演習を行っていたからだ。

 

演習には、米国のほか日英豪も参加しており、米紙は、冷戦後最大級の合同軍事演習として「20年前にアフガン戦争を開始してから米軍の関心がどれほど大きく変化したかを示すもの」と、米国の対中シフトを論評した。

 

米国のアフガン撤収は、戦略的な優先事項を中東方面からインド太平洋に向けるため、混乱を覚悟の決断であった。

 

 

米の国力をそぐ「永遠の介入」

 

戦後の世界秩序を揺るがす記憶の起点は、20年前の米中枢同時テロ「9・11」までさかのぼる。あの時、世界貿易センタービルへの航空機激突テロによって、世界は一夜にして変わった。当時のブッシュ(子)政権は、中東での「テロとの戦い」に向かわざるを得なかった。

 

この2001年の秋、隣国パキスタンのイスラマバードで聞き込んだのは、当地の中国大使が日米以外の駐在武官を招き、米軍の動向を探っていたことだ。米軍がこの先、①どのくらいアフガンに駐留し②どの程度の兵力を失い③どれほど国力を消耗するのか―という長期の見通しだった。

 

アフガン戦争の長期化によって米国が疲弊すれば、中国にとっては有利に働くとの計算だ。19世紀の英国も、20世紀のソ連も当地に侵攻して失敗しており、アフガンはこれら「帝国の墓場」といわれた。特に、ソ連のアフガン侵攻が、ソ連共産党崩壊の引き金になったことを考えれば、米軍の長期駐留は決して得策ではない。

 

この非対称戦争に入るまでのブッシュ政権は、中国を旧ソ連並みの「戦略的競争相手」とし、台湾防衛のためには「何でもやる」と公言していた。中国はこの時すでに、ベトナム戦争後の「力の空白」に乗じて南シナ海に進出し、フィリピンからミスチーフ環礁を奪っていた。

 

ブッシュ政権の思惑は9・11によって大きく旋回する。米軍がアフガンからイラク攻撃に転戦したことで、中国には願ってもない展開となった。

 

江沢民国家主席はこれに乗じ、翌02年11月の中国共産党大会で、「20年までの20年間が戦略的好機になる」と宣言したことに留意すべきだ。米軍がいないアジア太平洋で、軍拡に着手した。

 

 

テロと戦い20年 アジア回帰10年

 

バイデン政権によるアフガン撤収計画は、この9・11の20周年に結びつけられている。確かに今年は「テロとの戦い」から20年であるが、同時にオバマ政権が中国との均衡を図る「アジア・リバランス」を宣言してから10年がたつ。

 

オバマ大統領は11年にオーストラリア議会で、イラクとアフガンから離れてアジアへ回帰することを誓った。実際にはアフガンなど中東方面に足を取られ、「約束された〝回帰〟をアジアに届けていなかった」(フロノイ元米国防次官)との声が漏れる。

 

トランプ政権下でようやく「テロとの戦い」から中国との「大国間競争」に復帰した。対テロ戦争ではこれまでに多くの命と数兆ドルを費消してしまった。

 

ポンペオ前米国務長官の上級顧問で元駐アフガン米大使のマイケル・マッキンリー氏によると、この20年のテロとの戦いの失敗は、歴代米政権の誤算とアフガン指導者が国民のための統治をしてこなかった結果であるという。

 

米国防総省による20年12月の議会報告では、30万人のアフガン政府軍といわれながら、どこまでが水増しの「幽霊兵士」か分からない。政府、軍内に部族主義がはびこり、高官による汚職、詐欺、腐敗の蔓(まん)延(えん)が軍の士気の低下を招き、これらがアフガン政府崩壊の主因になった。

 

マッキンリー氏はたとえ米軍の撤収を数年遅らせても、米兵や外交官がさらに命を落とし、年間数百億ドルという戦費が消えるだけだ、と米外交誌で悲観的な見方をしている。

 

 

バイデン政権の「リバランス」へ

 

アフガン政府軍の崩壊直後に、バイデン大統領が記者会見で「アフガン人自身が戦う意思のない戦争で、米軍兵士は戦って死ぬべきではない」と述べたことが、「責任逃れ」と批判された。しかし、自国の防衛意思を持たない国に対し、外国勢が助けられないのは当然のことだ。

 

米国のアフガン介入の原点に戻れば、米国はアフガンに巣くったテロ組織アルカーイダを排除し、テロ攻撃の脅威を減らすことに成功している。失敗はアフガンの国家建設であり、これは元来の介入目的ではなかったはずだ。

 

ただ、トランプ政権、バイデン政権とも、撤収時期を明示しながらタリバンと交渉しても、形式だけの合意になってしまうのは否めない。最後は力がすべてを決することになる。

 

アフガン撤収が、米国の威信を失墜させたのなら、その立て直しは、「アジア回帰」に向けた具体的施策しかありえない。もてる外交・軍事資産を「アジア正面」に集中させ、中国を戦略的に抑止する。

 

「力の空白」が好きな中国は、さっそく王毅(おう・き)国務委員兼外相がタリバンの共同創設者の一人を天津に招き、タリバンとの協調に潜在的な利益を見いだそうとしている。タリバンとウイグル人武装勢力との歴史的なつながりを警戒するとともに、アジア回帰を目指すバイデン政権に対する背後からの揺さぶりである。次に「帝国の墓場」に向かうのは中国か。

 

中国がもっとも嫌うのは、米国が同盟国とパートナー国で取り組む対中包囲策である。米国のアフガン離脱は、ようやくバイデン大統領に「アジア・リバランス」へのフリーハンドをもたらしたことになる。

 

筆者:湯浅博

 

 

2021年8月27日付産経新聞【湯浅博の世界読解】を転載しています

 

この記事の英文記事を読む

 

 

Mr. Hiroshi Yuasa is Planning Committee member and Senior Fellow at Japan Institute for National Fundamentals and a columnist for The Sankei Shimbun. His areas of specialization include Security of Asia Pacific region, Japan-U.S. relations. Mr. Yuasa graduated from Chuo University, Faculty of Law and studied international relations as a Mid-Career Fellow at Princeton University. He served as the Sankei Shimbun Washington Bureau Chief 1995-98, and Singapore Bureau Chief 1998-2002.

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