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コロナ後の世界、主導狙う中国

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世界で新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するのを尻目に、発生源となった中国は湖北省武漢市の都市封鎖を解除するなど正常化に向けた動きを強めている。習近平指導部は、中国当局による初動の遅れが生んだ「世界的人災」との批判を巧妙にかわし、各国への援助外交を通じて大国としての存在感を高める構えだ。自国主導の世界秩序への再編をもくろむ中国に死角はないのか。

 

 

党内の習氏批判、外交で巻き返し

 

「感染症を制御できず、ましてや国際社会に拡散させることになれば、われわれは中国の国家指導者として13億人の中国人民と各国人民に申し訳が立たない」

 

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3月10日に習近平国家主席が封鎖された武漢市を初めて視察した直後、中国のインターネット上で拡散した「国家指導者」の発言は習氏のものではなかった。2003年10月、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(当時)が同年7月に終息した重症急性呼吸器症候群(SARS)への対応について、バンコクでの記者会見で語った内容だ。

 

中国では厳しい言論統制が敷かれている。現指導部に対する、遠回しだが痛烈な批判にほかならない。

 

中国当局は初動の遅れや情報隠蔽(いんぺい)が国内外から指摘されながら、一切謝罪の意を示さないばかりか「世界のために貴重な時間を稼いだ」(外務省報道官)と世界への貢献を強調する。官製メディアを利用して「世界は中国に感謝すべきだ」とまで高言する厚顔ぶりは国際世論の反発を招いたが、そうした中国の主張が内外で支持を得られないことは中国国内の知識人層も十分自覚している。

 

 

指導部路線に不満

 

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習指導部が国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買いながらも自画自賛を強める背景には、共産党内の不一致がある。

 

今年103歳の党長老、宋平・元政治局常務委員が習氏批判の急先鋒(きゅうせんぽう)とされる。宋氏は周恩来の秘書を務めた経歴があり、党内で隠然たる影響力を持つ。党中央組織部長時代に江沢民元国家主席を国家指導者としてトウ小平に推薦したほか、甘粛省トップの党委書記時代の部下だった胡錦濤氏、温家宝前首相を中央に引き上げたことで知られる。

 

習近平氏を国家指導者として推薦したのも宋氏だった。習氏は福建省や浙江省といった沿岸地域で指導者を経験していたため、改革開放路線を堅持していくとの期待があったという。

 

ところが習氏は18年3月、国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正に踏み切り、国内外で「個人崇拝」批判を引き起こした。経済面でも国有企業の優遇を推進したほか、党と行政の分離を進めてきたトウ小平路線に逆行して政府機能の多くを党に集約した。宋氏ら多くの長老が習指導部の「後退」に強い不満を抱く中で起きたのが、今回の新型コロナ問題だった。

 

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習氏は政敵を打倒する反腐敗闘争を通じて権力基盤を確立したが、こうした“恐怖政治”は現場の官僚や地方政府の指導者を保身に走らせ、「不都合な真実」の情報が上層部に上がりにくくなる副作用を生んだ。

 

香港における反政府デモの拡大や、「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文総統の2期目続投、さらには新型コロナが発生した武漢市における初期対応の遅れといった“失点”は、硬直した官僚機構が引き起こした結果だと批判されている。

 

 

3期目続投が焦点

 

反腐敗闘争でタッグを組んだ盟友、王岐山国家副主席との溝もささやかれる。王氏と密接な関係にある中国誌「財新」が、中国当局の情報隠蔽を暴くスクープを連発したことも、そうした見方に拍車をかけた。「習氏の政権基盤はそれほど頑丈ではない」と党関係者は指摘する。

 

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延期された中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)は、4月18日ごろに開かれるとの観測が北京の外交筋や中国メディア関係者の間で一時広がったが、ストップがかかったもようだ。国内の経済活動の再開が進んでいないため、全人代とほぼ同時に開かれる人民政治協商会議(政協)で企業家の委員らから不満の声が上がることを警戒しているとの分析もある。

 

22年秋に開かれる5年に1度の党大会は、習氏が布石を打ってきた3期目続投を実現できるかが焦点だ。今後、党内で習氏への批判が強まれば、激しい権力闘争が再び起きかねない。

 

内政に不安を抱える習指導部は、外交で反転攻勢を狙う。欧米など諸外国の感染が中国以上に深刻化していることは有利な材料だ。党と指導部の正当性を強め、国際的な地位向上を図ることができれば習氏にとっては再び国内の求心力を取り戻すチャンスとなる。

 

 

潮流はグローバル化後退?

 

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中国外交が現在、重点を置くのは感染押さえ込みにおける「偉大な成功」の強調だ。共産党が指導する政治体制の優越性を国内や発展途上国、また先進国の一部国民にアピールして、民主主義国の統治能力に疑問を抱かせる狙いがある。

 

世界的な感染拡大による混乱を奇貨として、早期に克服した強みを生かし、世界のリーダーを演じる機会を虎視眈々(たんたん)とうかがう。

 

感染が深刻な諸外国に対する医療物資の支援をはじめ、積極的な援助外交を展開しているのは、対中批判を封じるとともに「コロナ後の世界」の覇権獲得を狙うからにほかならない。

 

ただ現実はそう簡単ではない。サプライチェーンや国際的な航空路線は寸断され、中国の高度成長を支えてきたグローバル化は大きな打撃を受けている。

 

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中国人民大の時殷弘教授は、トランプ米政権の発足以降、米中間で先端技術や軍事交流、インターネット分野において「選択的デカップリング(切り離し)」が発生し、中国主導のグローバル化に打撃を与えていたと指摘する。さらに「新型コロナの感染拡大で各国が学ぶ教訓は、世界的な協力ではなく、グローバル化の制限だ」と断じた。

 

習指導部は「人類運命共同体」の理念を掲げ、巨大経済圏構想「一帯一路」を中核として世界的な影響力拡大を進めてきた。

 

中国寄りだとして米国などから批判を受ける世界保健機関(WHO)など国際機関への影響力拡大も、「国際ルールの制定により多くの中国側の主張や要素を注入する」(習氏)との方針が実現した結果だ。

 

だが、グローバル化の後退が明瞭になった場合、習氏の積極外交を支える源泉だった中国経済の再生も不透明となる。「一帯一路」の停滞も避けられない。

 

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さらに、新型コロナの発生源となったという動かしようのない事実がある。

 

米企業には中国に対する損害賠償請求の動きがあり、米下院では中国の初期対応を非難する決議案が提出された。時教授は、米議会が新型コロナ被害による事実上の賠償措置として「中国が保有する米国債を償還しない法案を通過させ、トランプ大統領も署名する可能性がある」と警戒感を隠さない。

 

習指導部は、今世紀半ばまでに総合的な国力で米国に並ぶ青写真を描いてきた。その超大国は現在、新型コロナで最大の打撃を受けているが、近年中に凌駕(りょうが)する実力は中国にない。

 

むしろコロナ後の世界は、実力差が残ったまま米中対立が激化するという習氏が最も恐れるシナリオが現実味を帯びつつある。

 

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筆者:西見由章(産経新聞中国総局長)

 

 

2020年4月11日付産経新聞【解読】を転載しています

 

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