コロナ禍後の未来射程に方策を

 

 

今から5年ほど前、私は『新潮45』(現在は休刊)平成27年8月号に「<第三のガラガラポン革命>が起こる周期」を寄稿した。オリンピック後あたりの社会が不気味になるという内容である。しかし、もちろん新型コロナウイルスの来襲を予測して書いたわけではない。

 

 

77年周期「ガラガラポン」

 

ではなぜオリンピック後あたりが不気味だと言ったのか。

 

近代日本は「明治維新」という第1のガラガラポンと、「敗戦」という第2のガラガラポンの来歴をもつからだ。第1のガラガラポンから第2のガラガラポンまで77年。とすると令和4(2022)年は第2のガラガラポンの敗戦からちょうど77年の周期になるからである。

 

第1のガラガラポンである明治維新は、志士の多くが下級武士だったように、かれらの不満を種にした下級武士革命だった。家筋(=身分)から学力(=学歴)という能力主義になる。しかし、それもつかのま、閉塞(へいそく)感が漂いはじめる。大正期の小春日和をはさんで昭和になると、第2の維新=昭和維新、つまり第2のガラガラポンが待望される。昭和6年の満州事変、11年の二・二六事件、12年からの日中戦争、16年の日米開戦とつながった。そして20年の敗戦にいたる。

 

敗戦は第2のガラガラポンだった。明治以降都会に集中した人口が逆流する。東京居住者と外地からの帰国者を合わせて1千万人近い人口が地方に還流した。

 

 

国そのものが崩れぬため

 

しかし、昭和40年代から過密と過疎が顕著になりはじめる。平成にはいると非正規雇用の増大や所得格差問題も目立つようになる。平成23年には東日本大震災がおきる。そんな中、私は〝第3〟のガラガラポンには2つのきっかけが考えられると思ってきた。

 

ひとつは格差社会化がすすめば、非正規雇用者などの「プレカリアート」(不安定なプロレタリアート)がいつまでも黙従してはいないだろうと思った。「下級武士革命」ならぬ「プレカリアート革命」もないとはいえないと。もうひとつのガラガラポンのきっかけは、平成以後に頻発するようになった大災害を目の当たりにして、あってほしくはないが、大規模な自然災害によるかもしれないとも思った。

 

ところが新型コロナウイルスのグローバルな拡散が盲点だった。

 

SARSも、さかのぼって〝スペイン風邪〟という20世紀はじめのグローバル化した感染症も、そのときの私の頭に浮かんでこなかった。その再来は悪夢であるがゆえに忘却の箱に入れられてしまっていたからだろう。

 

これまでのガラガラポンが社会に大きな変化をもたらしたことはすでにふれたが、今回の新型コロナ禍は第3のガラガラポンの契機となるだろう。しかし、前途には感染のさらなる拡大はもちろん、経済的難民の大量発生という危機も想定される。ガラガラポンの前に日本国そのものがガラガラと崩れていく。

 

だから最悪事態がおこらないための対処がもっとも大事だが、〝応急措置〟の中にも、未来につながるものが少なくないことも忘れてはならない。

 

教育の分野でそのいくらかをみておこう。

 

 

オンラインと対面の長所

 

日本はオンライン授業などのICT(情報通信技術)教育が先進国の中では遅れている。しかし休校措置が続くことで大学をはじめ一部の小中高校などではオンライン授業が突貫工事のように進んでいる。この禍がなければ進んだかどうかは疑問である。怪我(けが)の功名ともいうべきものではあるにしても、オンライン授業の進展は未来につながる教育改革である。

 

オンライン授業は、対面型授業とちがって体調がよくない者も受講しやすいなどの利点があるが、教授法も変わってくることに注意したい。教室という対面空間で黒板を背に教壇に立てば、教師に権威が生まれるのとは異なる。画像の中の教師は権威という道具立てのない中で話しはじめなければならない。教師は対面型授業以上に表情や身振り手振りを大きくし、めりはりをつけなければならない。教室教授法とはちがうオンライン教授法の開発が必要になる。

 

知識が「道具化」されるオンライン教育の普及で知識が「権威化」される対面型教育が相対化される。しかし、同時に対面型教育ならではの教育の特質もむしろ分かってくるのではなかろうか。オンライン授業からは良くも悪くも〝師弟関係〟は生まれない。将来は、オンライン教育と対面型教育の両方を並行して実施することで双方の欠点を相殺し、双方の長所がいかされるようになることが大切であろう。

 

オンライン教育やテレワークのように、新型コロナが収束したあとにつながるものも少なくない。それらについては、当面の応急措置とだけ考えずに、将来を射程に入れた方策であってほしいと思うのである。

 

筆者;竹内洋(社会学者・関西大学東京センター長)

 

 

2020年4月22日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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