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ワクチン開発に貢献した米軍事研究機関

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米国では新型コロナウイルスの感染拡大から1年足らずのうちにワクチンが開発され、接種が開始されている。この前例のない急ピッチのワクチン開発で存在感を高めたのが、米国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)であった。

 

DARPAは、人工衛星の打ち上げでソ連に先を越された1957年の「スプートニク・ショック」の翌年に設立され、革新的な技術を敵対国に先駆けて開発する使命を帯びてきた。自前の研究者を持たないが、全米の企業や研究機関で開発されている先進的な技術をいち早く見極め、資金援助を含めた様々な支援を与えた。その結果、レーダーによる探知が困難なステルス機やドローンのような新兵器だけでなく、インターネットや全地球測位システム(GPS)など社会を一変させるような技術を生んだことで知られている。

 

 

バイオ医薬品企業に資金援助

 

そのDARPAがワクチン開発を目標にし始めたのは、冷戦後の安全保障環境の変化が背景にあった。冷戦期は核兵器が最も重大な脅威であったが、冷戦後はより安価で簡単に製造できる化学兵器や生物兵器の方が深刻な脅威とみなされるようになった。とりわけ生物兵器は「貧者の核兵器」と呼ばれ、日本でも地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教が炭疽菌を用いたテロを試みるなど、その脅威は現実のものとなっていた。

 

生物兵器が米軍に対して使用されると、その行動が長期にわたって阻害される可能性が高い。だが、そうした状況においても、米国やその同盟国の安全を守るために米軍による対応が必要な状況も想定される。それを可能にするには、生物兵器が引き起こす感染症に対し、短期間でワクチンを開発することが不可欠となる。そしてワクチンは生物兵器によるテロやパンデミック(ウイルス感染症の世界的大流行)への対処でも有効であろう。

 

こうしてDARPAは通常では考えられない短期間でのワクチンの開発を目指した。DARPAがとりわけ着目したのが「RNAワクチン」である。このタイプのワクチンはかつて実用化された例はなく、民間企業にとっては開発リスクが大きい技術であったが、DARPAはワクチン開発に革命を起こす可能性に賭けて様々な企業に資金援助を続けてきた。例えば、米バイオ医薬品企業モデルナに対し、RNAワクチンの研究開発の初期から資金を拠出しており、モデルナがコロナウイルスのワクチン開発で先行する企業の一つになるという成果を生んだ。

 

 

民間では負えない開発リスク

 

DARPAが成功を収めてきたのは、リスクを許容しつつ、見返りの大きい科学的成果をひたすら追求する組織文化によるところが大きい。そして何よりも、国防上の要請を最優先に考え、それに必要とされるイノベーションを見いだす先見性がその原動力となってきた。もちろん、ハイリスク・ハイリターンを目指すDARPAが途方もない失敗を重ねてきたことも事実である。だが、パンデミックのような国難を打開する、いわゆる「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれる技術の開発には、DARPAから学ぶところは少なくないのではないか。(了)

 

筆者:塚本勝也(防衛省防衛研究所 社会・経済研究室長)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第753回(2021年1月12日)を転載しています。

 

この記事の英文記事を読む

 

 

Katsuya Tsukamoto is Head, Security and Economy Division, National Institute for Defense Studies, Ministry of Defense.

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