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令和の日本は三島由紀夫にどう映る

Editorial Board, The Sankei Shimbun

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作家の出久根達郎さんは50年前、東京・下町の古書店の店員をしていた。11月25日の昼頃、古書市場に出かけている主人から、電話で指示を受けた。「三島由紀夫の著書をまとめておけ」。三島の自決で世の中が騒然としていることを出久根さんは知らない。

 

書棚の一部に三島の作品を集めていると、飛ぶように売れていく。客の多くは、三島どころか文学とおよそ縁のなさそうな中年の主婦である。帰ってきた主人は渋い顔をした。まとめておけ、というのは、値上がりを見込んで隠しておけ、という意味だったのだ(『作家の値段』)。

 

行きつけの大型書店に、三島の特別コーナーができていた。こちらはもちろん、店長の指示通りであろう。三島の小説、戯曲、エッセーはもちろん、伝記や文学論まで幅広く並べられている。時代を超えて愛される三島文学の魅力を改めて思い知らされる。

 

事件をめぐるいくつもの謎に迫った本も目につく。三島の「決起」が日本人に与えた衝撃は、あまりにも大きかった。「あの時の客たちに、その後の三島観を、そっと聞いてみたい気がする」と出久根さんは書いている。節目の憂国忌を迎えて、むしろ本人に聞いてみたい。今の日本はその目にどのように映るだろうか。

 

「無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目(ぬけめ)がない、或(あ)る経済的大国が極東の一角に残るのであろう」。自決の4カ月前、小紙への寄稿文で披露した予言である。もはや高度成長は遠い昔、経済大国の座さえ危うくなった。北朝鮮に拉致された人々を取り戻すことができないまま、中国の軍事的脅威が日に日に高まっている。

 

そんな令和の日本に三島がよみがえる、奇想天外な小説を誰か書いてくれないだろうか。

 

 

2020年11月25日付産経新聞【産経抄】を転載しています

 

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