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自動車革命 ぶつかる仏伊のプライドと国益

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パリ・ブーローニュの森に面するビヤンクールは、フランス自動車産業のふるさとだ。ルノー兄弟が19世紀に造った工房は1920年代、国家経済を支える大工場になった。留学生だった鄧小平は21歳のとき、ここで働いた。「ルノー」と社名を刻んだ古い煉瓦(れんが)の壁が今も残る。

 

イタリアでは、トリノからフィアットが世界に飛び出した。共に120年の歴史を背負う自動車企業は、それぞれ苦闘の時期を経て、一つになろうとした。米クライスラーを吸収したフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が5月、ルノーに経営統合を提案した。

 

欧州を拠点に世界最大の巨大連合を目指す計画は、発表から10日で白紙になった。ルノーの筆頭株主、フランス政府が「工場は閉めるな」「日産自動車の同意を待て」とあれこれ条件を出したので、FCAが嫌になって手を引いた。

 

世界中の経済メディアは、「またも仏政府の介入癖で合併がつぶれた」と厳しい。だが、仏国内では意外と政府への批判はない。

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自動車アナリスト、ガエタン・ツールモンド氏は「対等合併なんて、そもそもあり得ない。どちらかが食うのです。フィアットがルノーの技術を取ろうという話だから、私は最初から反対でした」と言う。

 

見方を変えれば、ルノーがフィアットをのみ込む形なら、政府も国民も大賛成ということだろう。「イタリアの軍門には下らない」という対抗意識がありありだ。統合案に、仏では当初から「ルノーが損をする」という反対論が強かった。

 

政府が、日産の同意がないのを口実にルノーの決定を遅らせたのも、「すぐ飛びつくと、足元を見られると計算した」(業界紙記者)との指摘がある。

 

イタリアも、対抗意識をむき出しにした。サルビーニ副首相兼内相は統合案が出ると、「自動車産業は国の成長に不可欠。必要なら、新会社に政府も参加する責務がある」と述べた。日頃から、フランスのマクロン政権とは仲が悪い。

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自動車産業は、電気自動車(EV)やAI(人工知能)の自動運転という新技術の波が押し寄せ、大変革期を迎えている。巨大な開発投資、コスト削減が企業の勝負を決する。

 

しかし、欧州連合(EU)各国は国内の雇用に敏感だ。折しも、「自国第一」のポピュリズム(大衆迎合主義)旋風が吹き荒れる。欧州市場は頭打ちなのに、政治家は数百人の雇用削減でも大騒ぎする。まして自動車産業は、ものづくりへの国民のプライドがかかるから、厄介だ。

 

フランスでは5月末、同国に進出する米ゼネラル・エレクトリック(GE)が千人以上の雇用削減を発表した。2カ月前には、米自動車フォードの工場閉鎖が決まり、外国企業への不信が高まる。マクロン政権はFCAとルノーの統合案で、きちんと足かせをはめるよう迫られた。

 

仏政府はFCAに「まだ扉は開かれている」と呼びかけ、本音は未練たっぷりだ。ルノーの「切り札」は日産と育んだEV技術。FCAは目下、EUの排ガス規制への対応に苦心し、提携先探しを急いでいる。

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FCA、ルノーの両社とも単独では生き残れない。統合案の決裂は、業界再編の波のほんの一幕にすぎない。

 

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