韓国 防波堤論の不可解

 

 

文在寅(ムン・ジェイン)大統領が11月、テレビ番組「国民との対話」で日本との関係について語った「韓国は日本の防波堤」論が気になっている。

 

発言の背景には当時、韓国が日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の一方的終了を言い出し、外交的緊張が高まっていたことがある。しかし、保守派ならともかく、左翼進歩派で対北融和策に熱心な文大統領が、いわば東西冷戦時代の産物ともいえる韓国防波堤論を突然、持ち出したのには「えっ?」となったのだ。

 

これは「日本にとって北方からの安全保障上の脅威を韓国が防波堤になって防いでいる」という主張で、日本にとっての韓国の存在価値を強調し、日本から支援や協力を獲得する際の説得材料として、昔からよく使われてきた。

 

北方に共産主義拡大に熱心な旧ソ連や中国が存在した東西冷戦時代には一定の説得力はあった。そこで日本は米国とともに韓国の安定と発展のため、支援、協力に力を尽くした。日韓国交正常化(1965年)や現在の韓国の発展はその結果でもある。

 

韓国防波堤論と似た議論に「釜山(プサン)赤旗論」というのもあった。韓国南端の釜山に赤旗が立つことは、韓国が中ソをバックにした北朝鮮に支配され、朝鮮半島全体が共産主義になることを意味する。となると日本も脅かされるので、韓国がそうならないよう支援すべきだというわけだ。

 

ところが今回、文大統領の発言は「日本の安全保障において韓国は防波堤の役割をしてやっている。米国が提供する〝安保のカサ〟とわれわれの防波堤役割を通じ、日本は防衛費を少なくして自らの安保を維持している」と述べながら、肝心の何から日本を守ってやる防波堤なのか、安保の脅威は何なのか、あるいはどこの国なのか、にはまったく触れていないのだ。

 

韓国は昔はソ連(ロシア)、中国、北朝鮮という「北からの脅威」に対する防波堤だったが、文大統領は今もそう思っているのだろうか。現実的には今、軍事的膨張を続ける中国と核武装した北朝鮮が日本にとって安保上の脅威だが、文大統領の韓国はその防波堤になって日本を守っているというのだろうか。

 

安保上の防波堤などというのは、お互い一体感がなければ成り立たない。しかし、最近の韓国による独島(トクト)(竹島の韓国側呼称)防衛演習強化や自衛隊哨戒機への射撃レーダー照射、自衛艦旗(旭日旗)の入港拒否、そしてGSOMIA終了騒ぎ…など、その反日的行動は防波堤のイメージからはほど遠い。

 

文大統領は北朝鮮や中国には〝いい顔〟をしながら、一方で日本には北朝鮮や中国の脅威をにおわせた(?)防波堤論で利を得ようという、芸当をやっているようにみえる。中国や北朝鮮には防波堤論をどう説明するのだろうか。この地の昔からの外交術という感じもするが、これでは外交的信頼感は確かなものにならないのではと気になる。

 

東アジアの地政学的環境から、日本にとって朝鮮半島あるいは韓国の安全保障上の価値は昔も今も将来も間違いなくある。だから、韓国防波堤論が出てくる余地はいつもある。しかし、それはその都度、しっかり検証する必要がある。このところ日韓関係改善への動きが出ている。日韓首脳会談も近く開かれる見通しだが、日本としてはこの機会に文大統領の防波堤論の真意をぜひ聞いてみてほしい。

 

筆者:黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

 

 

12月17日付産経新聞【緯度経度】を転載しています

 

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Author:

Katsuhiro Kuroda is a visiting editorial writer in Seoul for the Sankei Shimbun.

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