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7月で再開3年目、岐路に立つ商業捕鯨 「自立経営」の道険しく

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日本が令和元年6月末で国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して約31年ぶりに商業捕鯨を再開してから、今年7月で3年目に入る。操業海域は日本の領海と排他的経済水域(EEZ)に限定。対象も十分な資源量が確認された3種に絞り、IWCで採択された方式で算出された捕獲枠の範囲内で行っている。ただ、それまでの調査捕鯨と比べると捕獲頭数が減った中で、民間のビジネスとして成り立たせる道のりは険しい。捕鯨業者は、最大の課題である「自立経営」を実現できるか岐路に立たされている。

 

 

補助金から基金に変更

 

「民間商業捕鯨業者として未来永劫(えいごう)存続し続けるという意思を表明したい」

 

5月10日。国内で唯一、母船式捕鯨業を手掛ける企業「共同船舶」(東京都中央区)の所英樹社長は、東京湾に近いビルで開いた記者会見でこう強調した。

 

所社長が会見で訴えたのは主に2つ。1つは、下り坂が続いてきた鯨肉の市場規模を再び拡大に転じさせること。もう1つは、老朽化の著しい現有の捕鯨母船「日新丸」(総トン数8145トン)の後継となる新たな母船を建造することだ。

 

攻めの経営を推進する考えを示したのには、共同船舶を取り巻く環境の大きな変化がある。商業捕鯨の再開以降、国は「実証事業」という形で共同船舶に補助金を交付して支援してきたが、3年度からはそれがなくなり、返済が必要となる基金方式に変更となった。

 

基金方式への変更について、水産庁の担当者は「商業捕鯨も3年目。共同船舶には将来的にしっかりと自立してもらうために、補助金に頼らない経営を実現してほしい」と説明する。

 

基金の一部を取り崩して事業を運営する。そこで得た売り上げから返済に充てる-。こうしたサイクルを繰り返す中で時間を稼ぎ、「共同船舶はその間に操業や販売のあり方をしっかりと見直して、収益を出せるように足腰を強くしてほしい」(水産庁の担当者)という意図だ。補助金は裏付けとなる予算が次年度に突然カットされる恐れも付きまとうが、基金は複数年度にわたって取り組める利点も見込めるとしている。

 

基金は、うまくやれば少なくとも4年は使えるとの見方もある。ただ、自立経営の道筋をつける時間としては決して長くはない。

 

 

「増枠がないと死ぬ」

 

自立を目指す共同船舶が特に大きな期待を寄せるのは、将来的な捕獲枠の増枠だ。所社長は5月の会見で「令和6年1月から増枠になると信じている」と、具体的な時期まで挙げた。

 

商業捕鯨で捕鯨業者は好きなだけクジラを獲れるわけではなく、国が毎年出している捕獲枠の枠内で認められている。現行の捕獲枠は、100年間獲り続けても健全な資源水準を維持できるという、IWCで採択された方式に沿って算出された捕獲可能量の範囲内で設定されており、極めて保守的な内容となっている。

 

水産庁の担当者は「科学的根拠に基づいた捕獲可能量の算出方式が決まっており、その範囲内でしか捕獲枠を設定できない。『欲しい』といわれても、約束はできない」と指摘する。

 

将来的な増枠は、現時点では共同船舶の「願望」の域を出ない。にもかかわらずそれを当て込むのは、増枠で生産を拡大できなければ自立経営はおぼつかないと考えているためだ。「増枠がないと死んでしまう」。所社長はこう訴える。

 

また、共同船舶は日新丸の後継となる新たな捕鯨母船で、南極海まで片道無寄港で行ける航続距離を確保する方針だ。南極海にはクジラが多く分布しており、「やがて訪れる食料危機に備えるため」と説明する。

 

かつて行っていた調査捕鯨では南極海で操業していたが、商業捕鯨の操業海域は現状では日本の領海とEEZに限定されている。IWCを脱退した今日では、南極海でクジラを獲ることを認めていない南極条約に拘束されるため、日本が南極海で操業できる見通しはまったく立っていない。

 

共同船舶もそれは百も承知だ。それでも、商業的な採算確保に向けては生産を拡大しなければならず、捕獲枠の増枠に加え、将来的には操業海域の拡大も必要だとの危機感がにじむ。

 

 

「鯨食」の裾野どう拡大

 

捕鯨母船の新造という巨額投資を行いつつ、民間企業として黒字経営を実現させる-。商業捕鯨再開3年目で難解な方程式と格闘する共同船舶。一方、国の側も、自ら再開に踏み切った商業捕鯨が安定的に行われるためのビジョンをどう描くかという責任を負う。

 

水産庁の担当者は「国としては、捕獲枠をしっかりと出すことだ」と語り、そのためにもクジラの資源量などを把握する調査を丹念に行うことを重視する。

 

捕獲枠がIWCで採択された方式に沿って算出された捕獲可能量の範囲内で設定される以上、調査で集めるデータの精度が向上すれば、結果として捕獲可能量が高く出て、増枠につながる可能性があるためだ。ただ、データの精度が上がれば逆に捕獲枠が減るという結果を招くリスクもある。

 

「鯨食」の裾野拡大や需要開拓も課題だ。鯨肉はかつて安価な上に栄養価が高いとして学校給食などで提供され、中高年にはなじみがあるが、若い世代では口にした経験すらないという人も多い。供給量が圧倒的に限られているため、価格もお手頃とはいえない。

 

共同船舶は、若い世代や高所得者層を主なターゲットとした販売促進活動を強化する。東京・豊洲市場などで鯨肉を扱うイベントを相次ぎ開き、動画配信サイト「ユーチューブ」での情報発信も積極的に行う。

 

国の捕鯨対策の予算は近年約51億円で推移し、単独の魚種としては最大だ。商業捕鯨は、採算性という高い壁を越えられるか、正念場を迎えている。

 

筆者:森田晶宏(産経新聞経済本部)

 

 

2021年6月7日産経ニュース【経済インサイド】を転載しています

 

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Akihiro Morita is a news reporter for The Sankei Shimbun.

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