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10月28日付の本欄は、中国共産党第19期中央委員会第6回総会(6中総会)で採択予定の「歴史決議」について論じ、自身の終身独裁への道を開くことが、習近平国家主席の狙いである、と分析した。

 

公表された「決議」の中身を見ると、習主席の目的はまさにこの通りのもので、そして、それがおおむね達成された。本紙関連記事も指摘したように、「歴史決議」の採択は確実に、習近平長期政権への布石となった。

 

その一方で、この「歴史決議」においてこそ、独裁者としての習主席の限界も見えてきている。それは、1981年に鄧小平主導下で採択された「歴史決議」と比較してみればすぐに分かることだ。

 

「文化大革命」という国家的大災難が終わった後の「鄧小平決議」は、先代指導者、毛沢東の政治路線の誤りとその弊害に対する批判に終始した。そして、このような過去否定の「決議」を行うことによって毛沢東時代の誤りを正したからこそ、鄧氏の新しい指導者としての権威が確立され、いわば「鄧小平の新しい時代」が切り開かれた。

 

毛沢東も、45年に中国共産党史上最初の歴史決議を行ったとき、やはり以前の指導者たちの路線・政策の誤りを正したからこそ、彼の独裁の時代が始まったのである。

 

「過去の誤り」を総括し正すことは、中国共産党における指導者の地位確立と新時代開拓の「王道」であることが分かる。おそらく今の習主席も毛沢東・鄧小平に倣って同じことをやろうとしているのだろうが、現実には彼はそれができていないし、できるはずもない。

 

習主席主導の「歴史決議」はむしろ、鄧小平とその改革開放路線を高く評価している。「鄧小平批判」的なことは一言も書いていないのだ。それどころか、習氏の先輩主席の江沢民氏と胡錦濤氏に対しても、「決議」は簡潔ながらも丁寧にその業績を羅列して評価し、賛辞をささげている。

 

キッシンジャー氏と握手する鄧小平氏

 

今の中国共産党は鄧小平とその改革開放の時代を否定できないのがむしろ当然のことであろう。鄧小平の改革開放があったからこそ世界第2の経済大国の中国があるのは誰もが認める事実である。そして今の中国共産党幹部のほとんどがまさに鄧小平の時代において成長してきてキャリアを積み上げてきている。「鄧小平」を否定することは、彼ら共産党幹部自身を否定することとなるのだ。

 

鄧小平を否定できないなら、鄧小平路線を忠実に受け継いだ江沢民氏と胡錦濤氏の政治を否定することも当然できない。結局のところ、習主席主導の「歴史決議」は、「過去の誤りを正した」ような派手なものにはならないのだ。それでは「習近平の新時代」の一体どこが「新しい」のか全く不明瞭である。

 

それこそが自らの時代を開こうとしている習主席の限界であって最大の弱点である。今後、いかにして「鄧小平」という高い壁を乗り越えていくのか、は彼にとっての大きな政治的課題となろう。

 

民主的に選出された台湾の蔡英文総統

 

そのために習主席は、あの鄧小平もできなかったような大仕事を成し遂げて、鄧小平を超えるような輝かしい業績を作り出さなければならない。それをどこで作るのかとなると、習主席の目線はやはり、「台湾併合」へ向いてしまうのであろう。共産党政権の悲願である「祖国統一」を自らの手で達成できたら、鄧小平だけでなくあの毛沢東さえ超えてしまう。

 

こうして来年秋の党大会で続投となった後、習主席が台湾併合に本格的に動き出す可能性は十分にある。

 

周辺国はこの平和の危機にどう対処するのか。今から真剣に考えなければならないのである。

 

筆者:石平

 

 

2021年11月25日付産経新聞【石平のChina Watch】を転載しています

 

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