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『くじらびと』が新たに観客賞受賞—石川梵監督による捕鯨ドキュメンタリーの快進撃

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インドネシアの小さな村で行われる伝統的クジラ漁は、グローバル化とは対照的に続けられる先住民の暮らしぶりと価値観をより鮮明に映し出す。

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日本人監督による捕鯨ドキュメンタリー作品がグアム国際映画祭で最優秀観客賞に選ばれ、躍進を続けている。

『くじらびと』(英題:Lamafa)は、インドネシアの孤島でクジラ漁をしながら伝統的な生活を営む人びとを描いた自主制作作品だ。その作品が今、世界中の現代人の心を動かし続け、このたびグアム国際映画祭(GIFF)で観客が選ぶ最優秀作品に選出された。

 

グアム国際映画祭委員会は先月29日、石川梵の制作・監督・脚本による『くじらびと』が今年度の観客賞に選ばれたことを発表。同作は、数週間前の審査員選出による最優秀作品賞受賞が記憶に新しいが、今回の追加受賞となり、躍進が続いている。同作品は、日本国内ではミニシアターを中心とした上映だったが、観客の心をつかみ、高評価を得て全国各地で上映延長が相次いでいる。

 

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『くじらびと』は、石川監督がインドネシア、ラマレラ島の小さな村で30年に渡って村人との近しい交流を続けた中から生まれた。村人は巨大なマッコウクジラを原初的な銛で突き、仕留めるために命を懸ける。その光景を映すにあたり、同作は捕獲の様子やクジラの流血シーンを覆い隠すことはない。だが、そこにあるより深いメッセージ性が観る者の心に響く。

 

「生き延びること、苦難から立ち上がる力、文化の保存といった普遍的なテーマが流れている。」同作についてGIFF審査員長を務めるトム・ブリスリン博士はこう語る。

 

「石川監督は、ダイナミックな撮影と編集により、まるで我々がじかに村人や漁師たちと会っているかのような臨場感ある出会いを与えてくれます。だから観客は、作品の語りの一部になったように感じ、そのことが説得力を持つのです。」

 

『くじらびと』のシーン。現在も昔ながらの道具を使ったクジラ漁が営まれるインドネシアの村の暮らしを描く。

 

日本では食肉目的の捕鯨が一般的に受容されている一方で、世界の多くの国では批判の対象となっている。そういったなかで石川監督は、海外の観客が「この作品を、広く愛されている動物の捕獲を描いた点に基づいて評価しなかったことを嬉しく思っている」と語る。

 

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新型コロナウイルスの影響で今年度のGIFFはオンラインで開催され、観客賞は日本、アメリカ、ニュージーランド、フランス、スウェーデン、ウクライナ、カナダ、ルクセンブルク、韓国、ミクロネシア連邦といった世界各国からバーチャル参加した観客による投票で決められた。

 

「この作品は捕鯨以上に、グローバリズムの影響について描いた作品だ」と石川は言う。

 

石川は同作の制作にあたり、自己資金とクラウドファンディングでのみ制作費をまかない、外部の圧力から自由に撮影することを選んだ。そのため、村人やクジラ漁師との深い関係を築くために現地でじっくりと時間を費やすことが可能となった。作品中、最も躍動感のあるシーンはドローンやステディーカム、水中撮影によるものだ。マッコウクジラの巨体を仕留めるべく銛を手に海に飛び込んでいくラマレラの勇猛な「くじらびと」たち(現地の言葉で「ラマファ」と呼ばれる)と、その原初的なクジラ漁の光景が観客の目の前で展開する。漁師とクジラの死闘はクジラの視点からも描かれ、漁師たちが迫り来るなかでクジラが発する悲痛な鳴き声の音声とともに画面に映し出されている。

 

また、石川監督が数十年をかけて築いた村人との信頼関係によって生まれたシーンはそればかりではない。観客は作品を通して村人の静かな食卓風景、葬式や市場の様子、教会に集まる人びとの息遣いやシャーマンの儀式に至るまで、より親密な形で村人の生活を知ることができる。

 

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石川梵監督

 

ブリスリン博士は、『くじらびと』が辺境の地の文化や生活様式を紹介しようとするドキュメンタリー小作品の伝統を保持していることを指摘する。

 

「いわゆる、私たちが「先住民の記録映画」(“Indigenous Films”)と呼ぶ作品は一般的に人物を中心にストーリーが展開します。そこには観客が感じられる確かな「現地感覚」があり、土地や環境などが人物にも拮抗する存在感を持って描かれます。それは、超大作と呼ばれる「商業映画」とは対照的です。商業作品においては、どこでも起こり得る筋書きやアクションが物語を動かし、人物はその筋書きのために存在するに過ぎません。」

 

『くじらびと』に登場する村人たちは、漁に必要なものすべてを一から手で作り上げる。銛を鍛造する職人がいて、木製の舟を作る職人がいる。ロープ編みには村中の人が集まって参加し、漁師が持ち帰ったクジラ肉は村全体で分配する。そして村人はクジラ肉を市場で果物や穀物と物々交換するのだ。

 

『くじらびと』のワンシーン。インドネシアの小さな村では今も、古式の道具を使ったクジラ漁が行われている。

 

 

商業捕鯨は国際捕鯨取締条約(ICRW)の加盟国では禁止されており、先住民による伝統的クジラ漁(先住民生存捕鯨)については例外として認められている。しかしインドネシアは条約加盟国ではなく、クジラ漁は国内法において許可されており、村人はクジラ以外にも、マンタやイルカ、ジンベイザメなどの大型の海洋生物を捕って生活の糧としている。

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プロの写真家として、ラマレラ島で30年以上にわたり映像を撮り続けてきた石川監督は、1997年には村での写真をまとめた『海人―THE LAST WHALE HUNTER』を出版。『くじらびと』は2作目のドキュメンタリー作品だ。初監督作品は、2015年の大地震で甚大な被害を受けたネパールへの支援として作った『世界でいちばん美しい村』(2017年公開)で、同作も個人制作であるにも関わらず、国内で高い評価を得ている。

 

GIFFは2011年に創設された、グアムで唯一のアメリカ映画祭だ。個人制作の作品を主に扱い、海外からの出品を募りながら、地元監督による作品の紹介にも力を入れる。2021年の地元作品賞(Its Best Made in the Marianas Award)は、ショーン・リザマ監督による『Kåntan Hereruー鍛冶屋の歌』に与えられた。映画祭主催者は、「フランチャイズ映画館で上映されるような商業作品とは別の選択肢を提供したい」と言う。

 

ブリスリン博士は映画祭について次のように語る。「GIFFのような映画祭は、特に若い世代にとって、シネマを通して、ショッピングモールの複合シアターで観られる世界よりももっと広く面白い世界を垣間見させてくれる、そういう場になれると思っています。」

 

著者:ジェイ・アラバスター
日本語訳:垣沼希依子

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