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ソ連崩壊後の1990年代前半にロシア外務次官を務めた知日派のゲオルギー・クナーゼ氏(73)が産経新聞の電話インタビューに応じ、ウクライナ侵攻は「ロシアの完全な国際的孤立を招いた」などとプーチン露大統領(69)を非難した。プーチン氏が侵攻の口実としている「ロシアの安全保障上の懸念」について、クナーゼ氏は全く同意できないと発言。現役外交官らに対しては「今日の出来事に加担しない唯一の方法は職を辞することだ」と述べ、「良心の辞職」を呼びかけた。
ロシアでは侵攻をめぐって厳重な情報統制が敷かれており、在ロシアの元高官が実名でメディアに見解を示すのは異例だ。
インタビューの中でクナーゼ氏は、ウクライナ侵攻の惨劇は「プーチン氏と側近らの行動の結果だ」と指弾。プーチン独裁体制の長期化によって「プーチン氏の周囲には彼に反対できる者が一人もいなくなった」とした上で、「ロシア帝国の再興」を夢想するプーチン氏を誰も止められなかったと分析した。
プーチン氏がウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟希望をロシアの「脅威」としていることについて、クナーゼ氏は「全く理解できない」と述べた。ロシアに接するバルト三国は2004年にNATOに加盟しているが、「そのことによる脅威は何らない」と指摘。ウクライナがNATOに入ってもロシアの軍事力が損なわれることはないと説明した。
ラブロフ露外相(71)は侵攻に先立って再三、「侵攻の意図はない」と述べて世界を欺いた。10日のクレバ・ウクライナ外相との会談でも「ロシアはウクライナを攻撃していない」との詭弁(きべん)を続けた。クナーゼ氏はラブロフ氏の発言を「職業外交官として、人間として恥ずべきことだ」と切り捨てた。
クナーゼ氏は、ロシアによる2008年のジョージア(グルジア)侵攻や14年のウクライナ南部クリミア半島併合で、欧米が厳しい対露姿勢を示さなかったことも問題視。これが今日のプーチン氏の暴走につながったとの見方を示した。
「ソ連時代にもない孤立」
国連総会の緊急特別会合(3月2日)では、ロシア非難決議が141カ国の賛成で可決された。反対したのは、ロシアとベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5カ国のみだ。主要な国際機関が圧倒的多数でロシアの行動を非難した。
今回のウクライナ侵攻で発動された国際社会の経済制裁は「かつてない厳しいもの」であり、「社会主義圏から必要なものを得られたソ連時代と違い、ロシアは完全に孤立している。このような孤立はソ連時代にもなかった」と指摘。ロシアが制裁で失うものは中国によっても補塡(ほてん)できず、「ロシアにはたいへん深刻な経済危機が待ち受けている」と述べた。
「プーチン氏は遅かれ早かれ去り、その後には民主化が起きるだろう」。クナーゼ氏はこう予測しつつ、「プーチン氏が去るときにはすでに、ロシアに対する世界の信頼が失われているのではないか」と述べ、次期政権の試練はソ連崩壊後の90年代初頭よりもはるかに大きくなるとの見通しを語った。(前モスクワ支局長 遠藤良介)
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■ゲオルギー・クナーゼ氏
1948年、モスクワ生まれ。モスクワ大卒。在日ソ連大使館やソ連科学アカデミー世界経済国際関係研究所を経て、ロシア外務次官(91~93年)や駐韓国大使(93~97年)を務めた。2014年、ロシアのクリミア併合に抗議して露人権問題全権副代表を辞職。